ACT 2
「楽しそうだな、志央」
幸也に皮肉られて志央は慌てて顔を引き締めた。
この頃ついつい顔が緩みがちになる。
七海とつきあいだしてからだ。
つきあうといっても昼飯を一緒に食べるだけのことだが。
七海のやつ、明日は何をつくってくれるんだろう、なんて思えば、実はいやいややっていた生徒会の仕事さえも意欲が湧く。
イジメグループのことも、いろんなうざったいこともどこかにいってしまう。
七海と一緒に昼メシを食べながら、ぼーっと空を見ていると、何かほっとするのだ。
「創立祭委員会は来週月曜日の放課後だな。幸也、各クラス委員に通達しておいてくれ」
「わかった」
「じゃあ、今日はこれで。お疲れ様」
四人全員が生徒会室を出ると、志央は鍵をかける。
「志央、メシ食っていくか?」
「お前誘うやつを間違えてるぜ」
志央は声を落として囁き、鍵を返すために職員室に足を向ける。
そんな志央の後姿を見つめ、こんなはずじゃなかった、と思っているのは幸也だった。
自分を嫌っている勝浩に取り入るのは無理だとわかっていた。
だが、志央があのタコ男をどうにかするなんてことのほうが遥かに不可能だと思っていたのに。
志央が七海とつるみだしてから、志央がおかしい、いや、何だか幸せそうにさえみえる。
だが、そんなことは口が裂けても幸也は言いたくない。
志央が誰かといて、あんなふうに笑うなんて、美央がいなくなってからついぞなかった。
まさか、あいつ、本気で………? いや、そんなのあるわけないさ。
幸也は苛ついていた。
晴れた空にホイッスルの音が響いた。
グラウンドでは二年生が体育の授業でサッカーをやっている。
七海がどこにいるかはすぐにわかった。
でかいディフェンダーは、すばやい動きで相手の攻撃をかわしている。
なかなかやるじゃん、あいつ。
「城島……こら城島、そっちに黒板はないぞ」
しまった、授業中だった、志央は慌てて担任教師に向き直る。
「あ、はい。すみません」
「創立祭のことで大変なんですよ。城島くんの肩にかかってるから」
助け舟は風紀委員長の高橋昌俊からだ。
長身に眼鏡をかけた普段もの静かな秀才は、以前から志央には何かと親切だった。
今年同じクラスになり、他のクラスメイトとはろくに口も聞かないのに、志央にだけは声をかけてくる。
さり気に肩に手を置いたり、振り返るとよく視線が絡む。
多分、気があるのだろうとは思っている。
志央の方は男にお応えする気はさらさらないのだが。
「まあいい。黒板の問題の解説しろ」
普段品行方性で通っている志央だからこその担任の対応だろう。
志央は心の中でこっそり舌を出す。
高橋のおかげで嫌なことを思い出してしまった。
実際、この先志央はやたらと多忙になる予定なのだ。
創立記念日である五月二十日は例年なら休日のはずが、今年は学園創立一〇〇周年にあたり、国内外の姉妹校や学園関係者を招いてのフォーラムや講演などのイベントが企画されている。
学園祭の実行委員会とはまた別の運営になるため、各クラス委員を創立祭委員にスライドさせ、生徒会長である志央が陣頭指揮をとらねばならない。
ったく、面倒くさい話だ、志央は思わず眉を顰めた。
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