一方、屋上の件は幸也たちにも話したが、その問題もまだ解決していない。
そっちを調べるのは大山と西本に任せておくとしても。
七海ともしばらく昼休みデート、できないかもな。
ここのところ一日一回はあのぬーぼーとした七海の笑顔を見ないと何だか落ち着かない。
精神安定剤、ってとこかな、志央は当初の賭けのことを棚に上げてそんなことを思う。
七海が、図体の割りに怖くない、バカがつくほど正直者で、しかもお人よしだということがわかると、それに付け込んでちゃっかり利用する連中もいるらしい。
今日大事な約束あって、なんて女の子に拝まれれば、七海はにこにこ笑って、いいよ、なんて放課後ひとりで掃除をしている。
屋上でやられた連中が七海に何か仕掛けてくるのではと気になって七海を訪ねてみると、そのていたらくだ。
それが志央は面白くない。
そんな七海に毎日弁当を作らせているのは志央なのだが。
フン、俺の言うことだけ聞いていればいいのに……心の中で身勝手な台詞をほざく。
あいつは俺に惚れているんだからな、十中八九。
男だけど。
あんな憎めない笑顔見せるし。
表裏ないヤツで。
中身はかなりホットだし。
何しろ、トカゲを踏むくらいなら、自分が転ぶってヤツだ。
イジメられてるヤツをほっとけずに、イジメた相手を怪我させて退学だって?
呆れるくらいドンクサい。
そんなヤツ、いないぞ、ほんと。
クックッと志央は七海を思い出して笑う。
志央はまだその時は、自分の心の奥にある不可思議な感情には気づかないでいた。
学園から歩いて三十分ほどの高台にある欧風建築の家を白い木の柵がぐるりと囲んでいる。
坂の下で、犬の散歩をしていた婦人に、城島さんの家と聞くと、白い柵の家だからすぐわかると言われた通り、青空の下、いかにも幸せそうな家族が住んでいますというように佇んでいた。
一際大きなポプラの木を中心に、サカキや花水木、木の実が季節には色づくベリー類やそれにきっとクリスマスにはきれいに飾りつけられるのだろうもみの木などが庭に植わっている。
ヨーロッパの家のようなアンティークのドアノックハンドルで七海がドアを叩くと、間もなく志央が現れた。
「どうぞ、遠慮せず入ってくれ」
出迎えた志央は、ブルーストライプのシャツも爽やかに微笑んだ。
土曜の夕方、Tシャツにジーンズ、生成りのシャツを羽織った七海は、買ってきた食材を手に志央の家に上がると、しゃっちょこばってあたりを見回している。
「その辺に座って。今、お茶入れる」
「え、あの、こんな広いとこに、一人で?」
「だから言ったろ? 母親は仕事で都内に住んでるし、祖父は鎌倉だから」
湯を注いだポットから芳しい紅茶の香りが立ち上る。
「七海も鎌倉だっけ? バイク通学なんて大変だな。部屋も空いてるし、何ならここに住む?」
七海の前にカップを置きながらからかってみると、案の定、七海の顔は見事にタコ化してしどろもどろになる。
「え、いえ…あの…」
馴れた手つきでフライパンを操る七海の横で志央が、手伝う、と調味料に伸ばした手を、一瞬遅れて伸ばした七海の手がまともに握ってしまう。
ハッと息を飲み込む七海の顔はもう真っ赤だ。
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