ポットの中のブーケガルニは、ミントやカモミールなど美央が育てていたハーブで志央が美央を真似て作ったものだ。
「このミントって、サラダにしてもうまいんですよねー」
しばらく黙ってお茶をすすっていたと思った七海がほのぼのと口にするので、志央は噴き出した。
「お前って地球上の生物が絶滅しても最後まで生き残るタイプだよな。食えそうだったら何でも口にしそう」
「えー、そんなに笑わなくても。ほんとにうまいんですよ、さっぱりしてて」
まだ笑っている志央を横目に、七海は眉を八の字にして弁明する。
「あ、今度、このローズマリーとか入れてシチュー作りましょうか」
ローズマリーの細い葉っぱを摘んでいる仕草に、古い情景が志央の頭の中に唐突に蘇る。
あ……そっか――。
『虫がいる、潰しちゃえ』
『こら、ダメ、志央』
ローズマリーの葉っぱに擬態している虫を見つけた志央がそれを摘もうとすると、美央がコンと志央の頭を小突いた。
『こんな一生懸命生きてんのに』
志央が中学に上がったばかりの頃だった。
美央はわざわざそのローズマリーの鉢を鎌倉の祖父の家の庭まで持っていって植え替えた。
今では巨大な茂みになっているはずだ。
何に対しても優しい……。
どこかで見た気がしたのは、美央だったんだ。
優しい笑顔……。
「志央さん、どうかしましたか?」
どうしよう。
何か、やばい気がする。
心の中のざわめきがおさまらない。
不安定な思いが志央の頭の中をうようよと蠢く。
そうだ、茶なんか飲んで落ち着いてる場合じゃない。
キス! 写真! 早いとこ、幸也に勝利宣言して、賭けなんか終わらせよう。
賭けなんかしてるから、落ち着かないんだ。
「志央さん?」
「あ、ああ、そう…だ、これ、入れるか?」
志央はそそくさと立ち上がってサイドボードからブランデーのビンを持ってくる。
「わっ、そんなに…」
七海が頷くのも待たず、お茶の中にとぽとぽとブランデーを注ぐ。
「へーきへーき、こんくらい。でかいくせに」
ハーブティなのに、ブランデーのハーブ割りのようだ。
カップを持ったまま、目を見開いてじっと見つめる七海の強い視線に、志央はちょっとたじろぐ。
「くもっちゃったな」
おもむろにメガネをはずして弄びながら、きれいな顔で七海の顔を覗き込む。
「これ、実はダテなんだ。視力はいい方。でもほら、生徒会長だし、頭よさそうに見せないとなめられそうだからな」
「そんなメガネなんかなくても、頭よく見えます。カッコイイです。でもメガネも似合うけど、その、ない方がすんげぇ、きれいだー」
そんなに感激されると何だけど、と志央は苦笑いする。
「七海こそ…」
一気に決めちゃえ。
「カッコイイじゃん。イジメられてるやつ、わき目も振らず助けにいったしー」
志央はにっこり笑う。
「………志央…さん…!!」
さすがにもう限界という感じで、七海はソファの上でガバッと志央に覆い被さった。
うわ、と思うまもなくキスが降ってくる。
ちょ…まて、おい! 息をもつげぬ状態に、志央の頭が体がぐらつく。
何こいつ、妙にキスがうまい…
ようやく離されても体中から力が抜け、朦朧とした頭で、志央はぼんやり七海を見上げる。
「…志央…さん、好きです」
あれ、七海、コンタクト入れてるんだ…
七海の目は不可思議な色をして、志央を映している。
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