笑顔をください2

back  next  top  Novels


 まだ制服も初々しい新一年生の目がこの美貌の生徒会長に釘付けになっているのを見渡して、当人の横で幸也が人の悪そうな笑みを浮かべた。
 志央とは対照的に見栄えのよいルックスと口のうまさで大概の女をコロリと参らせるという、ちょっと危ない大人っぽい雰囲気を持つ男だ。
 志央は陵雲学園理事長城島猿之助の孫だということだけでなく、二年の春、生徒会長に立候補した志央に、成績優秀なのは無論のこと行動力や判断力、何より人望の厚さから生徒たちはすんなりその権限を与え、それに応えるべく季節のイベントなどでも大いに手腕を発揮し、実績を積み上げてきた。
 髪型などにもさほどうるさくない校風は昔からかなり自由だが、携帯に関しては、ほとんどの生徒が持っていることで、規制するよりは、マナーモードに限って授業中以外の使用を学校側に認めさせた、というのも志央の生徒会である。
 当然カンニングなどに使ったら携帯は即没収、その生徒のクラスも一定期間使用禁止という連帯責任は持たせている。
 もっとも、本音を言えば自分たちが使いたかったのというが一番の理由だ。
 ともあれ志央は今や校内のみならず一目も二目もおかれている存在となっている。
 ただし幼い頃から天使のごときその容姿から何かとちやほやされてきた志央だが、ここのところ女子生徒の比重より男子生徒、果ては教職員にまで言い寄られて実は閉口していた。
 だが比類ない美貌の本当の威力を本人は認識しきれていない、と幸也は志央を見て常々思っている。
 時としていかに危うい色香を周囲に撒き散らしているかを。
 その幸也自身はたまにこそこそ近づいてくる可愛い子を選んでつまみ食いしている。
 中には男の子なんかの時もあったりして、志央には呆れた視線を向けられている。
「えー初めに、今年は創立一〇〇周年にあたり、創立記念祭が行われ、国内外からのお客様をお招きすることになっています。陵雲学園の生徒としてより一層気を引き締めて…」
 風紀委員長からの注意が始まると、張り詰めていた空気が一気に解ける。
 この陵雲学園は元来中学高校を一貫教育とする男子校だったところへ、近年の少子化の影響を考え、大規模な改築の上、中学高校にも女子生徒を受け入れることにして三年が経つ。
 だがもともと体育会系の強い陵雲のカラーもあってか、女生徒数は全校の三分の一に満たない。
 体育館に全校生徒が集合すると、黒々としたガクランに女子生徒のセーラーが埋もれてしまいそうだった。
「それと、夏休みに取り壊しが決まっている…えっと、静かにしてください…」
 風紀委員長の困りきったようすにも、体育館内のあちこちにざわめきが飛び火する。
「黙って聞け。お前ら、小学生か?」
 一瞬にして館内は静まり返る。
 怒鳴るわけでもないのに、志央のそのクールな口調のせいか余計に迫力がある。
「…取り壊しが決まっている旧クラブハウスには近づかないようにお願いします」
 ほっと息を吐いた風紀委員長が注意事項を再開した。
  
 
 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます