笑顔をください3

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 対面式に続いて委員会の紹介、運動部、文化部各部のオリエンテーションと続いて午前中のカリキュラムは終わる。
「もう一回、携帯賭けて勝負だ! 負けたら携帯諦めてやってもいい!」
 さて、品行方正な生徒会長の裏では、どうしても負けを認めたくない志央が、学食で昼を済ませた幸也を生徒会室に引っ張ってきて断言した。
「ふーん、まあ、いいが」
 幸也は息巻く志央を鼻で笑う。
 本校舎を挟んで第二グラウンドの向こうには、県外からの生徒の増加で近年建て替えられた真新しい学生寮が太陽光を浴びて建ち、第一グラウンドのあるこちら側には学生寮と同時期に建てられた新校舎が並ぶ。
 そして本校舎東棟三階に、志央らのいる生徒会室があった。
 備えつけのコーヒーメーカーから注いだコーヒーをすすりながら窓を開け放ち、幸也は早速志央から手に入れた最新の携帯機能を試している。
 夜半まで降っていた雨が花のほとんどを散らしてしまったようだ。
 生徒会室の窓の真ん前には桜の老樹がある。
 ところどころにまだ残った薄桃色の花びらが風に乗って開け放たれた窓からふわりと志央の髪に下りた。
 散りゆく様が何だか痛々しい。
 この時期の情景は何かしら志央の心を震わすものがある。
「これから五分後、この桜の下を通るやつを一ヵ月以内に落とす! どうだ?」
 志央は窓から見える桜の枝をビシ、と指し示した。
「学内だぞ? いいのか、騒ぎになっても」
「あと少しで生徒会長の任期も切れる」
 理事長の孫という立場上、志央は坂下にある付属幼稚園から小中高校と陵雲学園に学んだ。
 いくら努力して成績は有名国立大合格レベルになってたとしても、この先も祖父は志央が学園から出て行くのを許さないだろうことはわかっている。
 こんな退屈な学園に骨をうずめることを考えれば、些細なことさ、と志央は心の中で不遜なセリフを吐く。
「GGEでもBBAでもだな?」
 男女の比率からしても断然次に桜の下を通るのが男である確率が高いのだが。
「ああ! GGEでもBBAでも、ガキでもブスでも、だ」
 志央はかなりやけくそ気味に言い放つ。
「よおし、まあ、学内ってことで今回はキスまでいけばOK。ただし、キスしたってゆー証拠写真を見せる」
「証拠写真だー? んなもん、どうやって」
「チユーの記念に、とか何とか、自分で考えろよ。んで、戦利品は携帯プラスアルファだからな。もしお前が負けたら、そーだなー…」
 幸也は志央の顔を見すえてにやりと笑う。
「俺にキスしてもらおうかな」
「また、お前はそういう気色悪いことを」
 志央は眉を顰める。
「俺はお前にキスするくらいかまわないぜ?」
「…………俺は携帯だけでいい!」
「遠慮するな。じゃあ、俺が先だ。次に来たやつはお前な」
 余裕の幸也は窓に寄りかかって外に目をやった。
 昨日の雨が嘘のように、春の空は凛と澄みきった清々しさを見せている。
 午後からの今年度最初の授業を前に、暖かな陽射しに誘われて、校庭のあちらこちらに生徒たちがかたまってお昼を広げている。
 女生徒の声高な笑い声がどこかから聞こえてくる。
 ややあって、桜の方へやってくる人影があった。
「あー、きたきた。男だぞ。幸也、おや、可愛いじゃん?」
 幸也の横で志央は声に出して教えてやる。
「え、ちょ、待て! ありゃ、堺じゃないか? 生徒会役員はパスだろ? 目一杯俺らに軽蔑ビームをくれてるやつだぞ」
 日頃滅多に取り乱したりしない幸也が珍しく慌てている。

 


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