「そこで何をしている」
つかつかと男たちに近づいて、志央は声をかける。
「やべ、城島…」
大男を小突いていたうちの一人がボソリと呟く。
「転校生に何か用があるのか? もう授業が始まる。さっさと教室に戻ったらどうだ」
志央は男たちを睨みつける。
「いや、校内を案内してやろうかと…なー?」
「そうそう。また放課後な、転校生」
三人は口々に適当なことを言いながらチンタラ退散した。
「大丈夫か? 君」
絡まれていた大男は志央に顔を覗き込まれた途端、茹蛸のように真っ赤になった。
「あ、あの時の! 窓のところにいた人…!」
「ああ、俺もよーく、覚えてるよ」
「こ、こんなに早く会えるなんて! ありがとうございました。び、ビジンだ――! か…感激ですぅ…」
お前が運悪くあんなところを通るから、わざわざやってくるはめになったんだよっ!
などと志央が心の中で悪態をついているのも知らず、転校生は体を折り曲げるようにして感嘆のセリフを並べたてる。
二メートルはあるんじゃないかと思うほどの迫力なガタイ、五部刈りの茶髪頭、眉の太い、精悍そうな顔、野太い声。
こいつが二年? うっそだろ。何年も留年してんじゃないのか? 何をやらかして、流れてきたんだか。
このタコ坊主のどこに不安があるよ、と思った志央だが、そのタコ坊主、案外人のよさそうな目を細め、照れくさげに笑う。
どうやら見掛け倒しか。
「これも生徒会長の務めだからね。三年の城島志央だ。よろしく」
にっこり微笑んで握手を求めると、頭をかきかき、大男はへへへと笑う。
「この通りの図体なもんで、どこでも難癖つけられちゃって…。俺、藤原七海っていいます」
志央の差し出した手を両手で力いっぱい握ったまま、藤原はなかなか離そうとしない。
「あー、藤原くん、そろそろ中に入らないと」
「ハ、ハイー」
笑顔を向けたままやっと藤原は志央の手を離し、二人は校舎へと向かう。
と、いきなり、志央の横で藤原がたたらを踏むように足を浮かせたと思うと、ズデン!! と巨体が思い切り地面にひっくり返った。
「お…い、何やってるんだ? いったい…」
チョードンくさ…と、藤原を助け起こそうとして、志央は藤原のすぐ横を花壇の花の陰へと一匹のトカゲがするする逃げ込むのを見た。
え……、トカゲを踏むまいとして自分からこけたのか?
「……ってぇーー!」
花壇の石で擦りむいたらしく、持ち上げた藤原の頬に血が滲んでいる。
「君、血が出てるぞ、保健室行くか?」
「いやあ、こんくらい、なめときゃ平気ですよ。っと、あぶねー、あぶねー、花、つぶしちまうとこだった…」
のっそりと起き上がりしな、ちょっと倒れかかっている花を丁寧に植え直している。
普段はそんなものに気を止めもしないはずの志央だが、藤原の行動に何だかこちらも愛しささえ覚え、つい一緒になって花を土で固めていた。
あれ、こんな光景、前にあった…? なんだったっけ?
頭の中をよぎった何かがあったが、志央はそれがすぐに思い出せなかった。
「あの、でも、さっきの連中、邪魔されてあなたに迷惑かけたりしませんか?」
パンパンと制服の埃を払いながら藤原が志央を振り返る。
「ああ、君が気にすることはない。それより転校生がイジメられてるって聞いて、飛んできたんだぞ」
「え、いやー、昔はイジメにあったこともありましたけど…」
「君が?」
志央は目を見開く。
イジメなんて冗談で言ったつもりだったのに。
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