「昔、転校した先でイジメられて、それがトラウマんなってて…どうもイジメとかって、異様に反応しちゃって」
なるほど、それでこんなガタイしてても気が弱い、と。
所在なく頭を掻きながら話す藤原を見ながら志央は勝手に納得する。
「そういや、何かイジメにあって入院したヤツがいるらしいって聞きましたけど」
藤原のセリフに志央は眉をひそめた。
三月末に奥田という当時一年の生徒が入院した。
その理由がイジメグループに暴行を受けたからだと、生徒の間で囁かれている。
公にはなっていないものの、学園側としては口にされるだけでもありがたくないことこの上ない。
「さっそく君の耳にも入ったのか」
「何か、この学園に裏番がいるとか、剣道部員がリンチしたとかって、ひょっとしてさっきの連中が? 裏番様がどうとかって……」
藤原は小首を傾げつつ続けた。
「裏番だぁ? マンガの読み過ぎじゃないのか?」
志央は笑う。
「前の学校でも噂、流れてたんですよ。脛に傷持ってる連中の間で。敵対するヤツがいたら、足腰立たなくなるまで痛めつけるって」
「おいおい、そんなことしたら、とっくに警察沙汰になってるぜ」
城島は心の中のざわめきをポーカーフェイスに隠す。
「それもそう…っすね」
藤原はまた懐こい笑顔を見せた。
「でも、カッコイイです、城島さん。生徒会長っても、あんな連中と堂々とわたりあえるなんて! そんな、細いのに。あー、いやその、きれーなのに」
きれいだとか、そういう美辞麗句は聞きなれている志央も、面と向かってこれほど激しく賞賛されたことはない。
なのに、藤原の眼差しには邪気が微塵も感じられず、妙にその言葉はストレートに受け止められる。
「君から見ればみんな貧弱かもな」
「ハ、ハハ…すんません」
頭をかきながら、藤原はペコリ。
「俺の場合は、ほら、理事長の孫っていう看板があるからな。でもまあ、さっきのやつらはちょっと粋がってるだけだろう。多分」
「はあ…」
おそらく彼らはエスカレーターに乗っかれるのに甘んじて、遊んでいるとああなる、という典型だ。
すっかり勉強もわからなくなり、悪ぶって粋がっているが、あの手合いはそう害はない連中だろう。
問題はむしろそうやって表に出てこないところで燻っている。
志央は少し眼を眇めた。
「そういえば許可証はもうもらっているのか? バイク通学には許可証の申請をしなくてはいけないんだが」
「え、いえ」
藤原はきょとんとした顔をする。
「じゃあ、あとで事務室に連れて行ってあげるよ。転校早々でいろいろわからないこともあるだろう。よかったら校内を案内しようか」
「いいんですか?」
志央の親切ごかしな巧言に藤原はたちまち破顔する。
「もちろん」
志央はとっておきの笑顔を返す。
「よろしくお願いしますっ!!」
つき従う藤原七海は、ちぎれんばかりに尻尾を振る気のいい大型犬を連想させる。
この分だと何か楽勝、って感じ? そうだ、この賭けに負けようものなら、携帯持ってかれるんだ! しかも幸也にキスなんて、そんな不気味なこと、絶対ごめんだ!
要はこの犬を手懐ければいいんだ、見かけによらず弱っちいやつだし、と志央は心ひそかに笑い、手を叩く。
けど、何だったんだろう? さっきの…。
どこかで見たはずの光景。
妙に温かかくて、それでいて切ない。
思い出そうとして思い出せず、志央は首を傾げた。
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