放課後の生徒会室では、志央が勝算あり、と内心ほくそ笑んでいる傍らで、珍しく焦りの色を見せている男がいた。
「それ、入力するんだろ? 俺、手が空いてるから、手伝おうか?」
黙々と領収証を整理してExcelに入力していく勝浩の傍で、さっきからうろうろしながら、恐る恐るお伺いを立てたのは幸也である。
「結構です」
一刀両断、放課後の生徒会室に勝浩の冷ややかな判決が下る。
幸也のその涙ぐましい努力を目の当たりにしながら、志央はクスリと笑いを漏らした。
「何もとって食うわけじゃあるまいし、堺、手伝ってもらえばいいだろ? でも、二人きりになると、そいつ、狼に変貌するかも」
堺には自分も嫌われているとわかっていて、志央は茶々を入れる。
一度懐柔しようとして失敗した幸也だ、ちょっとやそっとで信用が回復するわけはない。
「反則だぞ!」
幸也が志央の耳元で囁く。
思わずにんまりしてしまうのは、志央の方は順調に進んでいるからだ。
「志央さぁん! メシ、行きましょー」
「おう、七海、お前ちゃんと授業受けてきたのか?」
四時間目が終わると同時に、二年生棟から三年生棟までダッシュでやってきて、藤原七海は威勢のいい声で志央を呼んだ。
手には大きな風呂敷包みを抱えている。
五部刈り特大の転校生の、連日の昼休み志央詣では、幸也の予想通り、あっという間に校内でいろんな憶測を呼んだ。
今までも志央に言い寄るという暴挙に出た者がいないではないが、あの美貌で冷たい蔑みの眼差しを向けられるのが関の山だった。
何でこんなタコ坊主が志央に馴れ馴れしくしているのかと、忌々しく思っている者は数知れない。
にもかかわらず、この転校生の迫力なデカさに、誰も何も言えないでいる。
「今日はきんぴらゴボウに、青梗菜の肉だんごに、志央さんの好きな出し巻き玉子ですよ」
能天気な調子で、まるでどこぞの新婚さん気分だ。
三年生棟中に聞こえそうなその声は、当然隣のクラスにいる幸也にも聞こえてくる。
「何が、志央さーん、だ」
二人が連れ立って歩く後姿にむかって、幸也は忌々しげに呟く。
人に執着しないはずの志央だが、どうも藤原という転校生はいけない、そんな漠然とした賭けとは別の苛立ちを、幸也は覚えていた。
幸也の焦燥を知ることもなく、志央は天気がいいからと、七海と七海の作ってきた弁当と一緒に今日もまた屋上に向かう。
牛乳とサンドイッチの志央の昼飯を見て、志央の分も自分が作ってきます、と七海が言ったのは、最初に校内を案内して、一緒に昼を食べた時のことだ。
肉、魚、野菜にご飯に梅干。
体裁は多少不細工だが、ボリュームのある栄養バランスのよいその弁当は七海が自分で作ったという。
「え、その弁当、母親が作ったんじゃないのか?」
「母親はガキの時亡くなったんで、家事はほとんど俺の仕事なんです」
あっけらかんと七海は笑った。
「そうなのか」
そういう不幸みたいなものとはてんで縁がなさそうなヤツなのに。
ツキ…、と、何かが志央の心をつつく。
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