笑顔をください9

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 俺だって高いほうなのに、見上げるわけだ。
 志央は苦笑する。
「体重は最近測ってねーけど、一〇〇㎏まではいってませんよ」
 デブっては見えないが、アイスホッケーで鍛えられた体格は並じゃない。
「ハーフって、ひょっとして、その茶髪、地毛?」
「はあ。ハーフって言うか、正確にはクォーターなんですけどね。小学校行ってすぐ仲良くなったヤツいて、何だ、イジメなんて嘘じゃん、とか思ってたら…」
 七海は唇を突き出す。
 くるくると表情が変わる。
 わかりやすいやつ、志央は苦笑する。
「イジメられたのか?」
「いきなり、誰も口聞いてくれなくなって。机の落書きされたり、靴隠されたり、そんなたいしたことされたわけじゃないんですが、そしたら、友達だと思ってたヤツが実は先導してたんだってわかって、そっちの方がショックで。結局お袋亡くなったんで、またカナダの親父のとこに逃げ帰って…ヘヘ、親父が帰国するのについて帰ってきたのが中三の時」
「一年はY高行ってたんだろ? まさか、またイジメられたのか?」
「え…いや、まあ…その」
 志央の問いに言いよどんで七海は立ち上がると、グン、と空に向かってのびをする。
「あー、すげー、ここから眺めると絶景」
 でかい図体のわりに弱っちいから、イジメられやすいんだ、と志央はちょっと同情の目を向ける。
 でも七海といると何やらのどかな気分になるのだ。
 本校舎、新校舎東棟、西棟、由緒ある時計台、大学並みの蔵書を誇る図書館、体育館にクラブハウス、学生寮、裏庭、裏庭から裏山に続く道筋、と歩いて案内したところを、志央はもう一度教えてやる。
「お前んち、鎌倉か、ならあっちの方だな」
 志央は右を指す。
「鎌倉なら、表門に回るより、この道を降りた方が近くなるぞ」
「そうですか、じゃあ、明日からこっちを通ります」
 志央のアドバイスに、七海は従順に従う。
「そうだ、あの、俺、今度メシ作りにいきましょうか?」
 志央は唐突な七海の申し出に、ちょっと躊躇う。
「何がいいですか? 大概のものならできますよ、俺」
「え…っと、…オムライス、とか」
 ほかほかした、美央が作るオムライスがふっと目に浮かぶ。
 大好きだった。
「オムライスかー、まかせてください。あの、今週の土曜とか、お邪魔していいですか?」
「あ、ああ…まあ、いいぞ」
「うわ…、嬉しいなー!」
 笑うと目がなくなる。
 七海は五部刈りの茶髪頭を掻きながらも身体全体で喜んでいる。
 志央は成り行きで家にきていいと言ったことをすぐに後悔し始めていた。
 賭けなんかのために、どうして、いいなんて言ってしまったのだろう、と。
 美央がいなくなってから、幸也以外、母親ですら家に入れるのなんていやだったのに。
 半面、七海の満面の笑顔を見ていると、賭けのために騙しているという後ろめたさも感じないではない。
 と、その時、アニメの「アルプスの少女ハイジ」のメロディが志央のポケットから流れ始めた。
 志央は携帯を取り出し、携帯の画面に目を落とす。
「幸也だな、勝手にこんな音、設定しやがって。…生徒会から呼び出し…だ。悪いな、今日は案内してやれなくて」
「生徒会なら、しゃーないですよ…」
 そう言いながら、シュン、と肩を落としているのが目に見えてわかる。
「土曜日、楽しみにしてるから。ごちそうさま」
 志央がドアを開けながら振り返ると、青空の中に「ハイッ!」とにくめない笑顔が浮かんでいた。

 


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