月の光が静かにそそぐ11

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 昨年末、大和屋のイベントプロジェクトの件で出演依頼をしたものの、所属事務所には断られたため、まだ古谷に直接合ったことはなかったのだが、MLBで活躍したレジェンド野茂同様、古谷は良太にとってはやはりヒーローなのだ。
「お前、何寝ぼけたこと言ってんだよ、仕事だろ? 『パワスポ』の。こういう忙しい人にはまたの時間なんてないの。ちゃっちゃか頼めよ」
 握手をしただけでぼおっとしている良太に、沢村がハッパをかける。
「何、随分二人仲いいんやね」
 古谷が笑顔になる。
「リトルリーグからのつきあいなんですよ。こいつと俺」
「ライバルだろーが」
 良太が沢村を睨みつける。
「お前にしたらな。こいつ、一応T大のエースやってて、六大学まで野球づけで」
「お、すごいな、T大でエース? で、何か、俺に話あったん?」
「あ、実は、『パワスポ』で是非今度、古谷さんのコーナー持っていただけないかと」
 沢村のお陰で良太はようやく本題をぶつけることができた。
「なるほど、うん、それはちょっと事務所に帰ってスケジュールと照らし合わせてからじゃないと即答はできないけど」
「もちろんです。もしお時間いただければ、詳しいお話をさせていただきますが」
「わかりました。そしたら、また打ち合わせの日にちとか連絡しますから」
「はい! ありがとうございます!」
 ぺこりと頭を下げる良太は、古谷を前に完全にファンの一人と化していた。
「せえけど、工藤さんてやっぱやり手やってほんまですね。こんなとこで二つも仕事決めてしまうやなんて」
 古谷が工藤を振り返って笑う。
 工藤のほうが若干背が高いが、古谷もさすがにがっしりとした体躯にミランドラのスーツはよく似合っていた。
「二つもって……」
 良太は工藤を見る。
「ああ、ほら、今度、『レッドデータアニマル』なんかを取り扱う、『自然からの警鐘』ってドキュメント夏にやるでしょ、俺もナビゲーターの一人として出さしてもらうことになったんですよ。今さっき、うんて言わされて」
 古谷はにこやかに言った。
「え、ほんとですか? すご……」
「何言ってるんだ、お前もスタッフの一員だろーが」
 工藤がやってきて口を挟む。
「はあ、よ、よろしくお願いします!」
 そんな話も今初めて聞いた気がするが、とにかく古谷としかもドキュメントで仕事ができるということだけでもう、良太は胸がいっぱいだった。
 そこでようやく工藤が自分をここに連れてきたわけがわかった気がした。
「ああ、それからあと一人、有吉のやつ、どこ行きやがった」
 工藤は場内を目で探す。
「有吉?」
 良太は初めて聞く名前だ。
「レッドデータの写真撮ってるヤツだ。一応、今度のドキュメントの話はウンと言わせたんだが」
「確か、ミランドラのコレクションも撮ってましたよね?」
 沢村が言った。
「よく知ってるな、そいつだ」
「そういえばそんな名前の人に、俺も撮ってもらったことがありますよ。ここのコレクション、出させてもらった時にいたカメラマンじゃないかな」
 古谷が言った。
「ああ、腕は確かだが……」
 工藤がその先を言いよどむ。
 良太はすぐに工藤が言いたいことを察した。
 うう、きっと性格に難ありってやつだ。
 いつものパターン。
 監督や脚本家や、嫌ってほどそういう連中とつきあってきた良太は心のうちでため息をつく。

 


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