その時、良太のポケットで携帯が振動し始めた。
取り出すと案の定、KBCでドラマを制作中のやっかいな脚本家からである。
「ちょっと、失礼します」
良太はせっかく古谷と話せるチャンスなのに、と思いながら会場を出た。
「ハイ、すみません、お待たせ……え? それはちょ……、いや、待ってください、それはやはりちょっと考え直していただかないと………」
待ってくれよ……!
心の中で怒鳴りつけながら、今度はあの監督とやるくらいならもう降りる、と言い出した脚本家を良太は必死で説得を試みる。
廊下で携帯相手に四苦八苦している時だ、視界に飛び込んできた人影に、良太は驚いた。
市川さん……!
かなり向こうの方にいるが、確かにそれは市川美由だった。
だが、彼女一人ではない。
あ、あれって、さっきの………!
一緒にいるのは、さっきいきなり良太に不愉快な言葉を浴びせた場違いなライダースブーツの男だ。
まさか、市川さん、あの男になんか絡まれてるんじゃ……!
「ちょ、とにかく、今、降りるとかあり得ませんから。また、こちらからかけ直しますので」
強引に携帯をきった良太は、慌てて市川のほうへ歩き出す。
だが男は市川の前から身体を翻し、市川の方がまるで追いすがっているように見えた。
「え……、何?……」
不審に思いながら、良太は我に帰り、「市川さん」と声をかけた。
「あ、広瀬さん!」
市川もようやく良太に気づいたようで、驚いた顔でやってきた。
「何? 今の男、どうかした?」
「え、いえ、何でも……広瀬さんもパーティきてたなんて、ちょっと意外。ブランドとかあんまり興味ないと思ってたから」
何となく話をはぐらかされたようには思ったが、良太は苦笑する。
「社長のお供。仕事がらみだよ」
「そうなんだ。でも、何か見違えちゃった。広瀬さん、すごく似あってる」
「君こそ」
シックなミランドラのドレスは彼女をいつもと違う知的で大人の女性に見せていた。
「いや、それより、あの、雑誌に変な写真撮られて、ごめん!」
「あ、あれは、こちらこそ、ごめんなさい! うちはほら、スタッフみんな一緒だったって知ってるし、でも、知らない人が見たら、いかにもって感じで撮られてたから、広瀬さんにご迷惑だったでしょう」
まさしくアスカの言ったとおり、市川には何の動揺も見られない。
「ほんと、写したやつ、今度見つけたら、ただじゃおかないって」
途端に市川の表情が曇ったのを良太は見逃さなかった。
「ごめんなさい……ほんとに」
市川はひどく申し訳なさそうにそう言うと、良太の横をすり抜けるように会場内に入っていく。
「え……どうしたんだろ……」
良太は急に変貌した彼女の態度が解せないまま、市川に続いて会場に戻ったのだが、すぐに「良太、帰るぞ」と、工藤がたったか会場を出ていくので、良太は慌てて後を追い、エレベータから地下駐車場に降りていく。
写真がでっちあげだということはわかっているものの、二人が一緒に会場に戻ってきたのを見て、工藤は我ながらついカッときて、出てきてしまった。
ミランドラに挨拶もせずに出てきたことを思い出したが、工藤にとってはそんなことは些細なことだ。
そういえば、自分が運転する車に良太を乗せるというのも久しぶりな気がする。
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