最近、飲酒運転の目に余る報道が多くなってから、工藤はこういったレセプションでも極力タクシーを使うか、グラスの酒には一切手をつけないようになった。
良太も、工藤が口をつけていたらと考えて、シャンパングラスも形だけ手に持っていただけだ。
「うわーでも、古谷さんと仕事ができるなんて、夢みたいだ」
もうちょっと古谷と話したかったなと、あらためて感激が舞い戻り、ナビシートに座った良太は思わず口にした。
子供のように目を輝かせる良太は可愛いものだが、いい加減、古谷古谷と連呼されると、工藤としてもあまり面白くはない。
札幌では宇都宮俊治のことをえらく賞讃していたし。
「『パワスポ』のほうもきっちり、約束をとりつけろよ」
「え、そりゃあもう! 何が何でも」
ぐっと良太は拳を握り締める。
「でも、古谷さんと約束してたんですか? 今日」
「古谷は以前ミランドラのコレクションに請われて出たことがあったから、おそらく今夜も現れるとふんで行ったんだ。でなけりゃ、んなもん、パーティなんぞうっちゃってる」
しれっと口にする工藤に良太は呆れた顔を向ける。
「ったく、これだからな。にしても俺までミランドラのスーツなんか揃える必要あったんですか? 正味一時間もいなかったのに、三着で何十万も散財して」
三着目は吊るしの比較的安い方のを選んだのだ。
それでも一着二十万近い。
だが工藤の前に三着並べて見せたところ、即座に却下されたのがそれだった。
「似合って、着られればそれでいいだろ」
「そういう問題じゃ……」
「車置いたら、メシ、行くか」
乃木坂に近づくと、ハンドルを切りながら工藤は言った。
「あ、はい!」
良太は自分がもし犬だったら、めちゃくちゃ喜んで尻尾を振っているだろう姿を思い浮かべた。
工藤が車を会社の駐車場に滑り込ませると、車を降りた良太は工藤に言った。
「俺、ちょっと着替えてきていいですか? こんなの着てると何か食った気にならないし」
「『夕顔』だ。先に行ってるぞ」
「はい。ついでにちびたちにご飯やってから行きますぅ」
良太はエレベーターで部屋に上がり、慣れないスーツをジーンズとジャケットに着替え、ナータンとチビにご飯をやる。
お待ちかねの猫たちがご飯に夢中になっているうちに、良太はスニーカーを引っ掛けてドアを開けた。
工藤と食事をするのは随分久しぶりな気がして、ついつい鼻歌まで出てきそうだ。
馴染みの小料理屋の暖簾をくぐると、カウンターの工藤はもう銚子を傾けていた。
アワビやタイの刺身のほかにフキやサトイモの煮物やきんぴらなど、いつものメニューが並ぶ。
「でも、古谷さんて、カッコいいですよね~、ミランドラのスーツなんかもビシッと着こなしちゃって、沢村のやつも同業者にはいつもドライなくせに、古谷さんに対してだけは結構熱いんですよ」
酒が進むとついついまた古谷のことが良太の口をついて出る。
「監督っていってもふんぞり返ったみたいな監督監督してなかったし、若いんですよね、常にアグレッシブで」
またぞろ、古谷の話になり、何となく面白くない工藤は相槌も打たずに、酒を口に運ぶ。
あれ、工藤と同年代かも……
お猪口を持ち上げたところで、ようやく良太は思い当たる。
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