夢のつづき10

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 想像をたくましくして、電話の相手が先日芽久が口走った賢次郎という人物であり、おそらくいつぞやの夜、工藤を訪ねてきた男ではないかと良太は考えた。
「十分渡したって、何、金……? 工藤、…脅されてるわけ?」
 おそらく直接問いただしたところで口を割るような男ではない。
 良太は、それからネットで検索してみたり、あちこちに「賢次郎」という人物についてさり気に聞いてみるのだが、依然、芽久と工藤とどういう関係なのか見えてこない。
「脅されているとなると、やっぱ問題だよな。小田さんに相談してみるか……」

 

 思案に余る良太にその答えがもたらされたのは数日後のことだった。
「せっかく、スケジュールあいたから旅行行こうと思ってたのに、工藤さんが入れたんだって、わけのわからない小さい仕事いろいろ。それも、地方まわりみたいな仕事ばっか」
 疲れたぁ、とアスカは入ってくるなり早速文句を言う。
 中川アスカ、青山プロダクションの看板俳優である。
 社長の工藤が、例え縁を切っているにせよ、広域指定暴力団中山会会長の甥という出自の関係もあって、青山プロダクションに自ら席を置くとすれば、社員もタレントも、わけあり、な人間がほとんどだ。
 何せいくら社員募集をかけたところで、工藤の事情を聞くと九十九%回れ右で帰っていくわけで、これまで入社したのは良太ただ一人だ。
 タレントにしても、スポンサーとタイアップでオーディションをかけた南澤奈々以外では、ただミステリー作家小林千雪が好きで、その原作を映画化したという理由だけで事務所に入るなどというのは、このアスカくらいだろう。
 ツワモノといっていいかもしれない。
 かつては業界で鬼の工藤と呼ばれて恐れられた工藤がどんな雷を落とそうが、アスカにあってはさほど身にしみたためしがない。
「賢次郎? さあ、知らないわよ。何? それ」
 ひょっとしてアスカなら知っているかもと、良太は「賢次郎」という名前に心あたりはないかとたずねてみた。
「いえ、別に。いいんです。忘れてください」
「賢次郎って……どっかで……なんか、そう、芽久の元彼の名前がそんなんじゃなかったっけ」
 さすが、カンのいいアスカである。
 良太が口にするなら、芽久に関係した男の名前だと、記憶に照らし合わせたのだろう。
「岸賢次郎。昔アクトプロモーションに所属していた俳優だよ。障害沙汰で事務所をクビになった後、しばらく音沙汰なかったが、近年小さい演劇集団に加わっていたらしい」
 そばから詳細な答えを返したのは、アスカのマネージャーを務める秋山である。
「さすが、業界の歩くコンピューターね、秋山さん。そうそう、戦隊物かなんかで確かイケメン俳優とかって騒がれてたこともあったっけ。その頃、ちょこっと芽久つきあってたみたいだけど、芽久は工藤さんに夢中になっちゃって、その彼はお払い箱。障害沙汰って、確か芽久に振られて酔ってどっかの店で暴れたってやつでしょ。馬鹿なヤツよねぇ、せっかく波に乗りかけてたってのに」
 その時良太の中で、賢次郎という男がなぜ二人につきまとっているのかという、疑問が簡単に解消した。


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