そんな芽久と工藤を見て、良太としては面白くないのは山々だが、芽久の怯えようはただならぬものがあり、岸の脅しにかなり参っているのだろうと見てみぬ振りをすることにした。
芽久が落ち着くまでと、工藤、良太とマネージャーの中井の四人は控え室にいた。
誰もほとんど言葉を口にせず、非常に気詰まりな時間が過ぎる。
工藤は疲労に加え、苦りきった表情をしている。
やがて他の出演者がホテルを出た頃、車の手配をしてくるというマネージャーが先に控え室を出ると、いっそうまた気詰まりな空気がどんよりと漂う。
芽久の携帯が鳴るまでおよそ十分ほどが、良太にはひどく長く感じられた。
「……はい。……わかった」
自分の携帯のコールにもびくびくしている芽久のようすに、良太もちょっとかわいそうになった。
「裏口に車まわしたって、中井から……」
芽久の言葉に良太は立ち上がり、先にドアをあけて廊下のようすを伺う。
「どうぞ」
「良太、先に帰っていいぞ。俺は彼女を送っていく」
工藤は芽久を抱えたまま廊下に出ると、そういった。
「わかりました」
とは返事をしつつも、良太は先に立ってエレベーターのボタンを押し、二人が乗り込むと自分もその前に立った。
このやろう!
工藤は良太の頭を睨みつけながら舌打ちする。
良太はもはやSP気取りで、工藤の周囲に目を光らせているつもりだった。
工藤の方は、良太から調査依頼を受けたと、既に小田から連絡を受けていた。
小田としては内密にという良太の心情もわからないではないが、ことが工藤のことなら、逆に忠犬ハチ公みたいな良太に負担をかけるなよ、と言ってやりたい方が勝ったのだ。
それ以上に、良太が工藤を庇って怪我をしたという前例もあることで、むしろ突っ走りそうな良太の方を心配していた。
「お前がくたばろうってなら納得もできようが、良太がお前の身代わりになんぞ俺は許さんからな」
悪友は電話でそう憎まれ口を叩いた。
「岸賢次郎はやばい連中に返済を迫られて、にっちもさっちもいかなくなってるらしい。やけになって何しでかすかわからん、用心するにこしたことはない。ハチの一刺しも時に命取りになる」
小田に言われるまでもなく、工藤は常日頃から胡散臭い輩に狙われる可能性があることは忘れてはいない。
ただ、自分だけなら何とかしようもあるが、今回は芽久も絡んでいる。
それ以上に、妙に勇んでいる良太をどうにかしないとと思うのだが、こういう時の良太に何を言っても聞きやしないのだ。
俺としたことが迂闊だったな。
芽久だけにでも警備をつけておくんだった。
力がないでもないのに落ちぶれた岸に対してちょっとでも憐れみを持ったりした自分を悔やんだ。
とりあえず要求してきた一千万を渡し、次はないぞ、と念を押した。
言葉どおり次に何か言ってこようものなら、小田でも呼んで警察に突き出してやるつもりでいた。
だが、よほど切羽詰っていたとみえる。
やがてエレベーターのドアが開いた。
良太は工藤と芽久の前に立って、あたりを窺いながら先に降り、二人が降りるのを待った。
工藤はあらかじめホテルと打ち合わせて、今回は通常の表玄関口やVIP専用の出入り口でもなく、従業員用の出入り口を使わせてもらうことになっていた。
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