デジャビュ?10

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「仲田さんとも仲良くしておかなきゃな」
 立ち上がった沢村に佐々木は呆れた顔を向けた。
「勝手にせいや」
 ハッシュドビーフにシーザーサラダ、玉ねぎのスープ、デザートはプリンというその夜の仲田の料理はプロはだしで、沢村は美味い美味いを連発してしっかりおかわりをして、仲田を喜ばせた。
 一人で食べるのは味気ないだろうという佐々木の要望で、仲田はいつも一緒に淑子と一緒に食事を済ませてから帰っていく。
 仲田を見送ってから不承不承帰ることになった沢村も玄関で淑子に暇を告げた。
「今日はかえってごちそうになり、有難うございました。人手が必要な時はいつでも呼んでください」
 表情を見せない淑子に、再三仏頂面とマスコミに叩かれている沢村と同一人物とは思えない愛想を振り撒いて、沢村は佐々木家の母屋を辞した。
 隣で佐々木は呆れていたものの、ボロがでないうちに早いとこ沢村を家から追い出したいばかりだった。
 たったか母屋を出て行く佐々木に沢村がやがて追いついた。
「待った、その前に…」
 振り向いた佐々木を抱き寄せると、沢村は唇を寄せた。
「おい、よせ……」
「お母さんになんか見えやしない」
 寒い冬の空気さえ溶けてしまいそうな熱いくちづけにしばし酔いしれる恋人たちを夜の帳が静かに包み込んだ。
 翌朝、沢村は九時前には佐々木家の裏木戸に車を横付けした。
 ドアを何度もノックされて、眠そうな顔の佐々木はスエットの上下のままドアを開けた。
「おはようございます。今起きた?」
「ああ……」
 何でこいつはこない元気なんや。
 まるで何日も寝ていなかったかのように風呂を使ってベッドに行った途端、ついさっきまでぐっすりだった。
 佐々木はくるりと背を向けてダイニングキッチンへと戻って行く。
 沢村はその後からのっそりついていった。
「コーヒー…、飲む?」
「いただきます」
 佐々木はコーヒーサーバーに豆と水をセットして、ボタンを押した。
 そのままバスルームに向かい顔を洗ったり歯を磨いたりすると、自分の部屋に戻り、セーターとパンツに着替える。
「コーヒー、入った」
 キッチンでは沢村が手近にあったマグカップ二つにコーヒーを注いで一つを佐々木に差し出した。
 ただ、ついその猫イラストのマグカップを凝視してしまったのは、もう何年も使っていなかった友香のものだったからだ。
 無論、沢村には何の他意もない。
 ズボラな佐々木がまだ捨てていなかっただけだ。
 コーヒーを飲みつつ冷蔵庫の上のデジタル時計で九時を十分ほど回ったところなのを確認すると、冷蔵庫から数日前に直子が御用達のパン屋で買ってきてくれたファンデュを二つ取り出してオーブントースターに放り込んだ。
「お前は食べて来たんやろ?」
 念のために沢村に聞くと、「見たら食べたくなった」などと言うので、あと二つほどトースターに入れる。

 


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