取り出したバターはこれもズボラがなせるところで紙パッケージのままだ。
母屋なら必ずバターはバターケースに入っているところだ。
皿を二つ用意して、少し焦げ目のついたファンデュを乗せた。
「美味いなこのパン」
どこぞの御曹司という割に、沢村が料理やパンやコーヒーにうるさい男でないのだけは、佐々木としても面倒くさくなくてよかったと思う。
「何日か前に直ちゃんが買うてきてくれたやつや。あの子、美味いもんは外さんからな」
だがまったりしている時間はなかった。
慌てて食べ終えて、浩輔に教わったように沢村が裏木戸の横に停めている車で二人はスタジオに向かった。
浩輔とともにスタジオで衣装合わせとリハーサルとを済ませた後、佐々木と浩輔は最後の打ち合わせをすることになり、沢村は帰ったはずだった。
佐々木家の大晦日の夜は、淑子の子供の頃からの風習でしんそばを食べることになっているのだが、佐々木は実はこのにしんそばが好きではなかった。
マックバーバーの方がまし、などととは決して口には出さないが。
仲田さんはおせちを作ったあと、佐々木母子とともにそばを食べて、その年の最後の挨拶を済ませた後帰っていく。
それが大晦日、佐々木家の年の締めの行事である。
そして元旦の朝はまた、年の初めの挨拶とともに仲田さんはやって来てお雑煮を作り、おめでとうの挨拶となる。
佐々木が就職してからは、いつまでも末永くという祈りを込めて、仲田さんにはお年玉と称して微々たるものだが心づけを渡している。
数年前から仲田さんが元旦にも顔を出すようになったのは、長年連れ添った夫が亡くなったため、息子二人も独立した今現在は一人で住んでいるからということもある。
仲田さんがいない間は淑子が一人で食事をするのだが、レンジでチンするだけにしてくれてあるものの、食洗機の使い方を覚えるまではシンクに食器が山積みなので、佐々木が夜中にたまに覗いて片付けたりしていた。
ズボラを自認する佐々木としては、結婚当初自分たち用にも食洗機を購入したものの、それが壊れてからは新しい食洗機を買わなければと思いつつ放ってある。
元旦は三人でお雑煮を食べたあと、仲田さんもいつもは三が日は休みになっているのだが、年明け早々大和屋のイベントの一環で淑子一門が茶の湯をやることになったため、門弟たちが午後からやってくるので、一門の一人として仲田さんも張り切っているらしい。
佐々木にとっては淑子に何だかだと文句を言われながらの年越しに加えて、大和屋のイベントに淑子一門が絡むという事態となって、とにかく早いとこ終わってほしいばかりだった。
ところがドアがノックされたのはそろそろ除夜の鐘が聞こえる頃だった。
「いったい何や?」
裏木戸からやってきた沢村は不機嫌極まりない佐々木にキスをし、初詣と称して連れ出した。
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