デジャビュ?5

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「いずれにせよ住まいが定まらないいうのはいけません。ホテル住まいなど浮浪者のような生活では一人前として世間に認めてはいただけませんよ。もっとも、住まいがあってもこの周平のようなていたらくではどうしようもありませんけど。春日さんの手助けでようやく独り立ちですからね、ほんまに情けない」
 沢村への苦言から、佐々木への容赦ない文句へと矛先が変わってくる。
「はあ、でもまあ、俺はマイペースやないと仕事が……」
「それがいい加減や言うのです。せやから嫁に出て行かれるようなことになるんです」
「はあ、すみません」
 やぶへびだと思いながら、佐々木はこういう時はとりあえず詫びを口にするしかないことを心得ている。
 下手に口答えなどしようものなら倍の文句が返ってくることはよくわかっているからだ。
「いやしかし、独立されてから大和屋さんの仕事でも随分佐々木さんの評判は上がりましたし、年明けには私も大和屋さんの仕事に関わらせていただくことなっていますが、佐々木さんは今綾小路さんの仕事でも動いておられます」
 思わぬ加勢をする沢村を佐々木は見つめた。
「綾小路さんのお仕事ですか?」
 淑子に尋ねられて、「はあ、まあ」と佐々木は曖昧な返事をする。
 仕事のことなど佐々木は母親に話したことはない。
 話してもCMだなんだといっても興味がないことはわかっていたからだ。
「まあではありません、ちゃんと話していただかないと、綾小路さんにきちんとご挨拶できしません」
「はあ、すみません」
 余計なことを、と佐々木は沢村をちらりと睨む。
「そういえば私はからきしダメですが、茶道といえば亡くなった母方の祖父がたしなんでいました。神戸の祖父の家にはかなり古い茶室があって、時々お茶の先生がいらしていましたが」
「どちらの先生です?」
 淑子の視線が鋭くなる。
「いや、流派などは全くわからないんですが、祖父は有元先生と呼んでいました」
「円斎流のお家元が有元さんです」
「はあ、子供の頃のことなので。祖父とはごく親しくしておられたようで、美味しいお菓子をよくいただきました。茶室には月照庵とかいう名前があって、祖父が亡くなってからはほとんど訪ねていませんが」
「月照庵というと、おじいさまは大河内さんですの?」
「え、ご存知なんですか?」
 沢村も驚いた顔をした。
「茶をたしなむものであれば、名だたる茶室くらい存じ上げているものです。お孫さんいうなら尚のこと、その由来さえ知らないでどないするんです。きちんとお勉強なさい」
「あ、はい、わかりました」
 突然の教育的指導に、沢村も思わず居住まいを正さずにはいられなかった。

 


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