デジャビュ?6

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 淑子にかかってはプロ野球の選手だろうが政治家だろうが、肩書きなど何の役にも立たないようだ。
 しきたりや家柄を重んじる淑子だが、それにふさわしい人間であればこそで、相手がどんないい家柄の生まれであろうと手心を加えるようなことはなく、むしろ自分を律することができないような者は、直子いわく、「クソミソにけなされる」のである。
 とりあえず自分に茶室のことなど振られてとばっちりが及ばなかったことに佐々木はほっとした。
 淑子に対しては大抵何でも、すみません、で馬耳東風を通してきた佐々木だが、ここでその月照庵なるものを知らないなどと一言でも口にした日には、沢村への何倍もの教育的指導を受けることになるのは目に見えていた。
 午後から佐々木と沢村は茶室と茶道の稽古に使われている二間続きの和室の掃除をすることになった。
「何か、祖父の茶室を思い出すな」
 草庵を見て、気楽そうな声を上げる沢村に、もうその話題から離れろと、佐々木は目で訴える。
 沢村は苦笑いして、淑子には聞こえぬよう、わかったと囁いた。
「茶室は周平に任せますから。沢村さんは和室をお願いします」
 夕方までかかるかと思われた大掃除は四時になる前にあらかた終わった。
 淑子の部屋や客間の掃除を終えた仲田がやってきて、お茶の用意ができていることを告げた。
 お茶のあと業者を帰し、仲田が食事の支度のためにキッチンに戻った頃。
「案外早よう終わりましたね。周平、そういえば離れはまだやないですか。沢村さんに手伝どうていただいて、早く済ませてしまいなさい」
 唐突に淑子がそんなことを言い出したので、佐々木はまた内心焦る。
「とんでもない、沢村も予定がありますし、俺の部屋はまた自分で……」
「いや、俺全然大丈夫ですよ、じゃあ、やりましょうか」
 俄然張り切った声で沢村は立ち上がる。
「どうせお掃除なんか滅多にやらないんですから、せっかくだから早々に取り掛かりなさい」
 母親の命令に渋々沢村を離れへと案内した佐々木だが、やはり中へ沢村を入れるのは何となく抵抗があった。
「俺の部屋なんかどうでもええ。第一、掃除なんかにつきあわんでも……」
「だって、佐々木さん、身体きつそうだったし」
 平然と口にする沢村に、佐々木はかあっと熱くなる。
「誰のせいや思うとんや!」
「とにかく掃除済ませよう。しかしこっちはまたすごい庭だな」
 沢村は離れの奥を眺めてしれっと言った。
「庭とはいわれへんやろ、これは。母屋の方はまだしもこの敷地の半分以上は雑木林や。何が出てくるかわかれへんで」
 鬱蒼とした木々の間にかろうじて細い通路があったのだが、それも今は草が生い茂り、とても人の通れる状態ではない。
 仕方なく佐々木が離れのドアの鍵を開けると、半畳ほどの玄関があり、廊下を挟んで右は居間、左は佐々木の寝室兼仕事部屋、奥がダイニングキッチンやバスルームなどになっている。

 


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