夏霞45

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 そんな言葉を佐々木は呑み込んだ。
 何だかそんなことすら言えないのが、哀しい。
「あ、おはようございます、佐々木さん、沢村」
 二人がダイニングに現れると、良太が目ざとく見つけて呼んだ。
「おはようございます」
「どうぞどうぞ。出かけるのは一応九時ですけど、どうせ俺の車で帰るだけだし、ゆっくり朝ごはん召し上がってください」
 ニコニコと藤堂は二人をテーブルに促した。
 藤堂も良太もまったりとコーヒーを飲んでいた。
 佐々木と沢村がそれぞれオーダーが済むと、「じゃあ、九時半くらいに駐車場で待ち合わせましょう」と言って藤堂が立ちあがる。
「今日は晴れてない分、蒸し暑そうですよね」
 良太も続いて立ち上がる。
 沢村ははたと思い出したことがあって、ダイニングを出る良太を追って肩を掴んだ。
「ちょっと、来い!」
「え? 何だよ?」
 良太の腕を取ったままダイニングを出てエレベーターホール横の人がいない場所をみつけると、そこで改めて聞いた。
「あの、アディノの広報課長とか、今後も会ったりするのか?」
 険しい形相で迫られて、良太は、ああ、と沢村が何を言いたいのか理解した。
「そりゃ、まあ、小菅さんがメインだからな、クライアントの」
「あいつ、ぜってぇ、佐々木さんに近づけるなよ!」
 良太はふうっとため息をつく。
「お前が凄まなくても、俺も、藤堂さんもわかってるって。佐々木さんは今一つ気づいてないみたいだけどな」
「くっそ、だからほんとに、あの人は!」
 沢村も大きく息をつく。
「俺から言うと、佐々木さん、変に意固地になるから、お前からさり気に、注意してやってくれ」
「わかった。まあ、今後のことも考えて、あのオッサンも下手なことはしないと思うけど、植山のこともあるしな、藤堂さんも目を光らせてるって」
「頼んだぞ」
「わかったって」
 良太に念を押すと、佐々木と居られるただでさえ貴重な時間をこれ以上無駄にしたくないとばかりに、沢村はそそくさとダイニングに戻って行った。
「沢村くん、どうかした?」
 エレベーターの前で気になって待っていた藤堂が良太に尋ねた。

 


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