藤堂が後ろに座ってぼんやりしていた佐々木に言った。
「ああ、いえ、結局もうずっと寝てもうて、疲れも何も……」
夕方からまた車に揺られて移動しなくてはならないことを考えると少し鬱陶しい気もするのだが。
「どっちかって言うと、佐々木さんの場合、考えすぎなんじゃないかな」
意外な言葉に、佐々木は運転している藤堂を見つめた。
「まあ、わからないでもないけど、沢村くん、人気スラッガーだし、関西じゃ、大抵誰でも知っているくらいだしね」
「ああ、ほんまに」
ホテルやレストランでしか二人でいたりはしなかったのだが、それでも沢村智弘に対する視線はすごく感じていた。
「でも、それはそれ、沢村くん、ほんと佐々木さんに一途で、佐々木さんしか目に入っていない。昔、女性と遊んでいるみたいな風にマスコミに書かれていたこともあったけど、本気になったら浮気とかするタイプじゃないし、その点、あの二人、沢村くんと良太ちゃんは似てるよね、悪は嫌いってとこ」
佐々木の心臓はドキリと音を立てた。
藤堂の言葉はまるで佐々木の心を読んで、佐々木へのその答えのようだ。
「昔の漫画のヒーローみたいに、バカみたいに一直線だからね、二人とも。あ、知らない? 野球一直線の漫画、昭和のやつだからなあ」
佐々木は笑う。
「その漫画は知りまへんけど、おっしゃる意味はわかりますわ」
浮気はできないタイプか、そうなのかもしれない。
何しろ、今朝のアホなセリフ。
思い出すとまた頬のあたりが熱くなってしまうのだが。
散々、関西の女、などと考えてしまった自分がアホらしく、さらに沢村を疑ってしまったことを申し訳なく思った。
「藤堂さん、漫画にも詳しいんやね」
「一時は部屋の本棚が漫画図書館のようだったよ、中学くらいの時かな。コナンからゴルゴ、鬼太郎、ハガレン、Bleach、ぬらりひょん、バガボンドにワンピース、その他もろもろ」
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