花びらの囁き3

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「高津はしゃべれるのか? フランス語とかイタリア語とか」
「しゃべれるかよ、んなもん」
 悠は、と藤堂が聞かないところが悠は癪に障るのだが。
「特訓するにも三日しかないしな。ちなみに英語は?」
「だから、しゃべれるわきゃねーって」
 悠はしれっと断言する。
「威張れることか。仕事さえなければ、俺がついていってもいいんだが」
「あんた、何言ってんだよ、卒業旅行だぞ! 何で父兄同伴みてーなマネしなくちゃならねんだよ! 俺ぁガキじゃねーっつったろーが!」
 ボソリ、と口にした藤堂の言葉を聞きつけて、悠が喚く。
 父兄……、密かに心の中で反芻している藤堂に畳み掛けるように悠が続ける。
「第一、忙しいんだ、パリでルーブルとオルセー見て、ローマでバチカン見て、アッシジのフランチェスコ寺院見てフィレンツェでウフィッツィ。イタリア人やフランス人とのんびりおしゃべりしてるヒマなんかねーの!」
 悠は一応計画をざっと並べた。
「のんびりおしゃべりって、ガイドもいないんだろ? 必要最低限の会話はだな」
「んなもん、いざとなりゃ、ボディランゲージ、でなきゃ、絵でも描けば楽勝!」
 あまりの能天気な発想に藤堂は頭痛がしそうになる。
「しかし、パリは二日間だけ? ルーブルなんか、俺は一ヵ月見て回っても見たりなかったぞ。その上オルセーなんて」
「一ヵ月もあんた、何そう見るもんあるんだよ」
「ほら、一応、ギャラリーのプロデューサーやってるからね。広く浅く?」
 藤堂は肩をすくめる。
「俺だって、ちゃんと調べてあんだよ。ボッティチェリとジョットーとグレコ、それにダヴィンチとニケくらい見たらルーブルなんかに用はないの。オルセーはゴッホくらい観れば、俺はとっととパリなんかおさらばすんだが」
「それはまた……、簡潔なチョイスだな」
 いかにも悠らしい選択だ。
「ボッティチェリとジョットーが好きなんだっけ?」
「ジョットーは形はどーでも、色がさ、フランチェスコ寺院のかすれたフレスコ画の色なんか、もうクウ―――――――――――――――ってくらいいいんだ。グレコは色はどーでも形がさ、面白れぇから。やっぱ現地で実物見てみねーとな。それにダヴィンチのヒエロニムスとかも。ボッティチェリは別格。ウフィッツィで存分に見てやる」
 目を輝かせて語る悠がひどく可愛くて、藤堂は思わずその髪をわしゃわしゃとかき回したくなる。
「ゴッホは一応見ときたいし、高津のやつがカミーユ・クローデル命だからさ、ロダン美術館もチラッと行かなきゃだし」
「カミーユ・クローデル! うん、なめるように細部まで神経が通った作品って感じかな。いいね、しかも美人だ」
 藤堂はうんうんと頷いた。

 


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