花びらの囁き4

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「ま、なあ、ロダンのヒヒジジイの作ったお約束なシロモノより数段マシ、かな」
「悠にかかっちゃ、ロダンもかたなしだな」
 藤堂はくっくっと笑う。
「俺にとっちゃ無用のもんってことだ。ロダンを崇拝するヤツに喧嘩売る気はないさ」
「なるほど。しかし過密スケジュールだな」
「ほんとはさ、もっとゆっくりいろんな絵、見たいんだけどさ、ゴッホやノルデやムンクやヴァンドンゲン、それからクラムスコイとかペトロフ・ヴォドキンとかルブリョフとか? 見てみたいよな」
「ヴォドキン? また意外なとこを攻めてるな。フィロソフなんかはどう?」
「あ、そう! あんたもよくわかってんじゃん!」
 意気揚々と語る悠には何の迷いもない。
 二人で絵について語り続けた夜は更け、やがて悠は藤堂が飲ませたワイン二杯で、あっけなく眠ってしまった。
 つい先日都の美術館で始まった卒業制作展の準備とバイトのかけもちで疲れているのだろう。
 若さだけをバネに動いているが、限界を超えてやってしまうから、いつぞやのように倒れるような羽目になる。
 大人だなどと言い張るが、やってることはまるで子どもだ。
 高津や悦子も言っていた。
 『クラスのアイドル、っていうよりまるきり怖いものなしのやんちゃ坊主。ちょこまか動いて何しでかすかわからない幼児と変わらないとこあるから、目が離せない』
 さらに悠が創るものもいつも人をはっとさせてくれるので目が離せないのだとも。
 そんな幼児を見知らぬ異国に行かせて大丈夫なんだろうか。
 高津がついているとはいえ、やはり心配の種が消えぬまま、藤堂は標準より絶対体重が足りないだろう悠を抱きかかえて寝室に運んだ。
「やっぱり、心配だよな、アイちゃん」
 ワインを飲みながら語りかける藤堂に、アイちゃんは、そうだね、というように、くうん、と鳴いた。
 
 

 土曜の夜もプラグインの面々はCFの撮影で追われていた。
 しかもところはほどほどに暖かくなりかけた三月の六本木。
 浮かれて遊びまくる若者を掻き分けながら、ようやく撮影を終えた藤堂と浩輔は、車を置いているパーキングへと歩いていた。
「遊ぶなとはいわないが。俺たちも学生の頃は羽目をはずしたいだけはずしていたわけだし」
 ぶつぶつと藤堂は口にする。
「俺の周りで遊ぶな、俺の周りから散れ!」
 隣を歩く浩輔が思わず吹き出す。
「やだなー、藤堂さん、どうしちゃったんですかぁ?」
 いつものほんわかペースが一日中見られなかった藤堂のその理由に、浩輔はだいたい見当がついていた。
「急ですねー、悠、月曜って明後日出発じゃないっすか」
「そうなんだ。それなのに準備もそこそこに、今日もコンビニでバイトしてるんだよ」
「でも旅行でしょ? 留学するわけじゃなし」
「十日間だけどね、まあ、いきなり成田から電話してきてイタリア飛んでっちゃうような突拍子もないことはできないみたいだが」
「そんな大昔のこと持ち出してあてこすらなくてもいいじゃないですかぁ」
 ようやくたどり着いた車の中で藤堂が以前浩輔が急に会社を辞めた時の話を持ち出すのに、浩輔はぶーたれる。

 


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