「これは何の冗談だ? 義行!」
コーヒーをすすりながらデスクを見た河崎が、数枚の書類を手に言った。
CF撮影のために翌日の日曜も返上で労働を終えたプラグインの面々は、夕方オフィスに戻ってきて一息ついていたところだ。
「見りゃわかるだろ? 企画書兼出張届け」
「何が出張届けだ! ざけやがって。日本自動車のプレゼンは、ドイツ、アウトバーンで決定したはずだ。今更アウトストラーダ? フィレンツェ込みだ? 寝言を抜かしやがって」
浩輔はそれを聞くと、藤堂の企みはこれか、と脱力する。
「何か企んでいると思ったら……」
「それこそアウトバーンじゃ、今更お約束過ぎるって気がするだろう? やっぱフィレンツェ美女とイタリアンな夏ってのも、サブプランとして用意したほうがいいじゃないか。ティツィアーナちゃんにはもうスケジュールおさえてもらってあるし。ほら、前にローマで知り合ったモデルの可愛い子、いただろ?」
ぺらぺらとまくし立てる藤堂にふーっと先頃禁煙持続中の電子タバコの煙を吹きかけると、河崎はおもむろに言った。
「きさま、そこまでしてあんなガキのケツを追っかけてーのか?」
「人聞きの悪い。たまたまスケジュールががっちあって、フィレンツェでお茶をすることになるかもしれないってだけだろ?」
のらりくらりと藤堂は河崎の追及をかわす。
「あのガキもそろそろひとり立ちしてーんじゃねーの? いい加減、あしながおじさんから離れてぇって思って」
だが藤堂とは幼稚園から英報堂まで肩を並べてきた悪友な河崎は、突っ込みをやめようとしない。
「いつだったか、コースケちゃんを追いかけようとしたお前を止めた俺に意趣返ししたいだけだろーが、お前は」
「そんな古い昔のことを根にもつような男だと思ってるのか?」
「幼稚園の中井先生に抜け駆けして花の首飾りをプレゼントした長瀬君を、お前が忘れるヤツじゃないことは、三歳児の時からお前のお世話係をやっていた俺が一番よく知っている」
「バレンタインに自分ちの宣伝よろしくハートのチョコを差し出してまんまと中井先生のご機嫌を取った頃から小賢しかったお前を知らないとでも?」
低レベルの言い争いをしている大の男二人を横目に、浩輔はコーヒーをカップに注ぐ。
「今度は何? アレ」
一人自分の仕事を黙々とこなしていた三浦がノートパソコンから顔を上げ、浩輔に尋ねる。
「アレ? ほっとけばいいですよ。ああ、それより今度の週末あたり、藤堂さんフィレンツェに行くらしいですよ」
「へ? ウソ! 東都建設は?」
三浦にとってはそれこそ青天の霹靂だ。
「前倒しするみたいなこと言ってましたけど」
「う……藤堂さーん」
三浦はガックシとうなだれる。
ずっとエリートAEとしてひた走っていた三浦だが、この二人、河崎と藤堂にかかっては予定を狂わされっぱなしなのだ。
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