そんなお前が好きだった11

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「あーーっ、やっぱり! さっき大きな音がしたから何かと思ったら、これどうすんのよ!」
 窓ガラスが割れて風が吹き抜ける音楽室に二人の一年生を連れてやってきたのは音楽部部長の瀬戸川琴美だった。
 寛斗と同じクラスで、クラス委員もしている快活な少女だ。
 音楽部員はサッカー部より悲惨で、三年生が部活から退いてから四人というさみしい人数となっていた。
 琴美はこのままだと消滅してしまいそうな音楽部を何とか存続させたいとあれこれ手を尽くしていた。
 そこへ一人だけしかいない一年生部員が、入ろうか迷っている生徒がいると琴美に相談してきたので早速会って連れてきたというわけだ。
「しゃあないだろ、ボールが飛んでっちまったんだからよ」
「飛んでったんじゃなくて、あんたが蹴飛ばしたんでしょ!」
 わるびれもせず口にした寛斗に、琴美が食って掛かる。
「三月なんか吹き曝しで授業なんかできないわよ!」
「わーかったってお前ら、俺から先生に言って、修理してもらうから。って誰に言えばいいんだ?」
 口を挟んだものの、響ははたと眉を顰める。
 井原がガラスを割った時はどうしたんだろう、と考えてみたが、井原のこと以外全く思い出せない。
「事務の脇田さん?」
 寛斗が言った。
「サッカー部員のしでかしたことなんだから、西川先生にまず報告して西川先生に手配してもらえばいいでしょ? キョーセンセが出てくことないわよ」
 琴美の言葉で、へいへい、と不承不承寛斗は教室を出て行こうとした。
「ちょっとまってよ! 修理の前に、この吹き曝しを何とかしてよね!」
「copy that!」
 敬礼のマネをした寛斗はサッカー部員を引き連れて音楽室を出て行った。
「ふざけたやつ!」
 琴美は言い放ったが、ここ数カ月、音楽の時間だけでもこの二人のやり取りを見ていた響は、琴美は寛斗のことが気になるらしいと感じていた。
 付き合ってはいないようだが、青春の一こまを傍から見ている立場の響は、微笑ましくも羨ましいような思いに駆られる。
 クールな教師でいようと思いつつ、タイムスリップでもしたかのようにどこか生徒たちと同じ目線で見てしまう自分に呆れてもいた。
「しょうがない、カーテンだけでもひいておいて、準備室の方で話しようか」
 響は割れた窓のあたりまでカーテンを引いた。
 音楽室に隣り合う準備室のドアを開けると、奥の倉庫に入れてある楽器特有の匂いがする。
 真ん中に置いてあるテーブルに折り畳みの椅子を持って来て、琴美は先ほどから少し緊張気味の一年生女子二人を座らせた。
「和田です。待たせて悪い。あんなアホなハプニング滅多にないから」
 響は一年生の緊張をほぐそうと、軽口で言った。
「あの、一年五組の志田詠美です」
 天使の輪がきれいなストレートの髪を揺らして、少女は言った。
「志田さんは、ヴァイオリンやってるんですって」
 琴美が志田を紹介した。
「へえ、すごい。俺、弦楽器やれる人って尊敬する」
 響が感心したように言ったので、志田は恥ずかし気に笑った。
「すごくなんかないです。先生こそ、ロンティボーで優勝されたような方がどうしてこんなとこの教師とかやってるんですか?」
 あらら、知ってるってことは、ガチで目指してんのか。
「そんなの過去のまぐれな話だから、気にしないで。音大目指してるんなら、無理に部活に参加は進めないけど」
「いえ、迷ったんですけど、キョー先生がいらっしゃるんなら、ぜひ参加させていただきたいです」
 引き気味になる響に、頬を真っ赤にして志田は語気を強めた。

 


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