そんなお前が好きだった12

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「よし、決まり! これで五人!」
 琴美は二つの拳を握りしめながら、声を大にして言った。
「あとは、春の新入生どれだけ誘い込むかだわ」
「どういう作戦で行きます?!」
 もう一人の一年生、榎沙織も身を乗り出すようにして琴美を見た。
「誘い込むとか作戦とか、物々しいな」
「だって、今たった五人ですよ? 一人は幽霊部員の寛斗だから、実質四人。去年だって、八人しかいなくて、先生も音楽部だったでしょ? 新入生の勧誘とかやらなかった?」
 のんびり尋ねる響に、琴美が捲し立てる。
「俺がやんなくても、元気な奴らがいていつの間にか集まってたな。文化祭とか、いざって時は幽霊部員が総動員かけられて、こんなにいたっけってくらい。井原ってやつが一声かけるとさ………」
 やはり何かにつけて井原の名前が出てくるな。
 昼休みにちょっと音楽室のピアノを弾いていたばかりに、響は音楽部に入りたての井原に無理やり音楽部に引っ張り込まれたのだ。
 必要以上に賑やかなやつだったよな。
 井原の人望だか口八丁だかのお陰で、音楽部は名前だけの幽霊部員も入れると数十人の大所帯で、元気もその一人だった。
 ただし、いつも音楽部にいるのは数人で、その中には井原が必ずいたのだが、響はレッスンを優先していたから、たまに井原に言われて合流していたくらいだ。
「井原さんはわが音楽部歴代の部長の中でも敬愛するにふさわしい方です」
 響も琴美からそれは何度も聞かされていた。
 田村に講師をバトンタッチされたと同時にこの音楽部も当然のように面倒を見ることになったから、田舎に戻ってしばらくのんびりして、などという響の目論みは見事に覆され、祖父の葬儀が終わった翌週にはあたふたと母校の音楽室の教壇に立っていた。
 井原、俺今、お前の音楽部で高校生相手にあくせくしてるんだぜ?
 笑えるだろ。
 こうして高校生たちのいる空気にどっぷり浸かっていると、まるで井原がそこかしこにいるような気さえしてくる。
「だから何とか存続していかないと、歴代の音楽部員に申し訳が立たない!」
 何百年も昔の武士のような口調で語る琴美は、一見きれい可愛い女子高生なのだが、彼女も寛斗と同じ医師の一人娘で、医学部を目指している。
「まあ、ヴァイオリンの志田さんとチェロの瀬戸川さん、クラリネットの榎さんで三重奏とかできるし」
 響が提案すると、榎が、そうだ、と立ち上がった。
「オリエンテーションの前にどこかで、ゲリラライブってどうですか? 部活紹介に先駆けて」
「でもそれ、生徒会に一応話通さないとだろ?」
 意気込む榎に響は一応釘を刺す。
「SNSにアップするのはもちろんだけど、やっぱ、ライブで肌で感じるのと違うと思うんだよね」
「それは同意です。生の音とネットで聴くのとじゃ雲泥の差があると思います」
 それまで黙って聞いていた志田が強い口調で言った。
「わかった。企画まとめて、生徒会に打診してみる。もし実現すれば、寛斗にも呼び込みとかさせればいいし」
 おっと、寛斗のいないところで勝手に話が進んでいるぞ。
 響は内心笑いながら、琴美のきりりとした目を見つめた。
 翌日、志田のヴァイオリンを聞かせてもらうということで、音楽部員はさっさと帰っていった。
 そういえば、井原にも付き合っているとかいないとか言われていた女子がいたよな。
 井原と同じクラスだという、琴美よりもっと線の細い感じの少女だったが、井原のことが好きだと、そんな目をしていた。


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