そんなお前が好きだった36

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 以前祖父がヨーロッパ旅行のついでに響を訪ねて来てくれた時に、響はたまたまクラウスがいたので紹介したが、二人になった時、クラウスと付き合っていることを祖父には告げた。
 祖父は案の定、それをきちんと受け入れてくれた。
 しかし、父親にも話してくれと言うと、クラウスとこの先ずっとパートナーとして生きていくのかと逆に祖父に問われ、わからないと響は答えた。
 まだわからないのなら、父親にわざわざ話すことはないだろうと祖父は言った。
 だがその時、何かこみ上げてくるものがあって、響は本当はずっと井原が好きだったのだと祖父にぶちまけた。
 でももう会えないのだと泣いた。
 そんなに好きならいつか会えるさ、そう言って、祖父は驚きもせず、響の想いを受け止めてくれた。
 父親に話すことはなくても、祖父には話したいことはまだまだあったのに。
 高齢だが新しい携帯などもすぐに馴染むような人で、よくビデオ電話では話していた。
 優しく思慮深く、柔軟な考えを持つ人だった。
 東や紀子は何も違和感なく受け入れているようだが、井原は元気の相手が豪だと知ったら、どう思うのだろう。
 いやおそらく、井原のことだ、それもありと受け入れるに違いない。
 でも井原自身はどうだ?
 モラトリアムの中の疑似恋愛みたいなものではなく、実際にそういった感情を男から向けられることに違和感を持たないだろうか。
 明るい家族だった。
 お姉さんも井原を女性にしたような、明るくて優しい感じだった。
 きっと次の世代を望み、生まれる命を喜ぶだろう家族。
 そんな一点の曇りもない清々しいほどの青に、ダークな鼠色を落としたくはない。
 高校時代の井原が響に向けてくれた親愛の情を壊したくはなかった。
 響にとって井原が初恋の相手であったとしても、それを告げて井原の笑顔がゆがむのを見たくはなかった。
 だからきっぱりと響が断ち切る以外にはなかったのだ。
 ブロマンスイコールラブではない。
 まあまさか十年物の腐った初恋の蓋が開くとは思ってもみなかった響だが、どれだけ今の井原はあの頃の井原ではないと自分に言い聞かせても、顔を合わせているといつの間にかあの時と同じ目で今の井原を見てしまう。
 いっそ早いとこ、荒川先生でも誰でもいいからくっついてくれたらいいのに。
 思考がよそに飛んでいた響は、井原の笑い声で我に返った。
「東、それ、もうやめた方がいいんちゃう? お前が描いた絵をあげた途端、相手がどっか行っちまうとか、最悪じゃん。相手が今も後生大事に絵を持っているとは限らないしな」
「うるさいよ、お前みたいなモテ男に俺の苦労がわかってたまるか」
「それさ、好きでもない子に手編みのセーター贈られた男と同じじゃね? 相手の気持ちが入り込み過ぎて重いとかさ」
 井原が言うと、東がウっと言葉に詰まる。
「あ、それ、俺も経験あるわ。高校ん時。バレンタインにあんまり知らない子に手編みのセーターもらっちゃって」
 元気が話に割り込んだ。
「それどしたよ?」
「いや、その子の名前とか忘れたけど、それがどっかで買ったのかってくらい温かくて着心地よかったから、大学ン時まで愛用してたわ」
 井原がはあと一息つく。
「お前らしいよ」
「お前こそ、いろいろもらったんじゃね?」
 元気が突っ込むと、井原は、それはない、ときっぱりと否定する。

 


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