「いい車って言うなら、元気のランドクルーザーじゃないすか」
井原は不動産屋への道を軽くハンドルを切りながら車を走らせる。
「ああ、でかいよな。でも器材積むし、あの黒、元気に似合ってる感じ」
「まあ、そうっすね」
ちょっと拗ねたような口調の井原に、響は苦笑する。
「何だよ、車で元気と張り合ったってしょうがないだろ」
「まあ、そうっすね」
響はくすくす笑いながら、ドライブレコーダーに目を止めた。
「俺の、格安中古で古いからドラレコついてないんだよな。そのうちつけてもらわなけりゃ。やっぱ前後いるよな。ナビとかも取り換えてもらわないと」
「え、業者に頼まなくてもそんなの俺やりますよ? いくらでも」
俄然、声のトーンを上げて井原は響を見た。
「こら、前を向け。お前できる? だったら頼もうかな」
「任せてくださいよ、これでも物理やってたんすから」
「物理と何の関係が?」
「まあまあ」
オーディオもいい。
流れている曲は古いアメリカのロックのようだ。
「ここは角部屋ですし、広々としたリビングは二〇畳あります。キッチンはこじんまりとしてますが、カウンター式で使い勝手がいいと思いますよ。こちらの洋室はウォークインクローゼットもついて寝室としてお使いいただけます」
不動産屋が最初に案内してくれたのは、学校から車で約十二分ほど、三階建てアパートの二階だ。
バルコニーからの見晴らしもいい。
無論駐車場もありだ。
「リビングは全面掃き出し窓で明るいですし、これで六万円ちょいはお安いと思いますよ」
五十がらみの不動産屋は一押しだという。
「結構広いんじゃないか。日本のアパートとしては」
響はあちこち歩いて回って、このくらいあれば自分も暮らせるかもと思う。
ただし、防音設備ないからな。
共同住宅でピアノは難しいよな。
「そうだな。ちょっと天井が低い気がするけど」
井原は上を見上げて言った。
確かに井原の身長だと、天井が近いかも知れないが。
「日本の住宅なんて普通こんなもんだろ。天井のことをいえば、自分ちの方がいいんじゃないか?」
井原の家は、父親が建てた築二十年ほどの吹き抜けのある居心地のよさそうな家だ。
ただ、井原の部屋は六畳だから、手狭と言えばそうかも知れない。
「本が山積みでさ、俺の部屋、今」
とりあえずもう一軒見ることになっていた。
不動産屋の案内で次に向かったのは、方向的には街の逆側になるが、高校から車で約五分ほどのところに建つ、平屋の一軒家だった。
裏は細い道を挟んでなだらかな山になっており、前と横は田畑だ。
隣との距離がある。
三LDKで六万、敷地は結構広く車なら余裕で三台くらいは置けるだろう破格な物件だ。
「事故物件とか?」
井原がダイレクトに不動産屋に聞いた。
「いや、まさか。要は駅からかなり遠いし、周りが何もない、スーパーも車で何分という事情からですよ」
「ちょっとした庭もあるし、ここならそれこそ結婚しても住めるんじゃね?」
響が言うと、井原は少し考え込むような顔をした。
「まさしく、ファミリーでももちろんOKです。リビング十六畳、洋室が三つ、ロフトつきです」
不動産屋はまだ築五年ほどだと説明した。
「ちなみにペット可です?」
「たしかOKですよ。周りに何もないから、ワンちゃんが鳴いてもOK」
しきりとOKを繰り返す不動産屋に、井原が、「じゃあ、ここにします」とあっさり言った。
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