浩輔の家族構成は当然、兄の浩一の勤め先が城南大学だということまで。
「何で、兄のメガネの好みなんか、知ってるんですか」
メガネのブランドを言われて、浩輔が思わず問いただすと、「こないだ来てくれただろ?」と藤堂は言う。
たった一度会っただけの浩一のメガネのブランドまでチェックしてるとは。
「藤堂さん、探偵でもやっていけるんじゃないですか?」
「あたりまえじゃないか。業界のシャーロック・ホームズとフィリップ・マーロウが顔を揃えてるんだからね、小林くん。代理店稼業がいつ煮詰まってもいいように、逃げ道は用意してあるから安心しなさい」
小林くんて、俺のことですか。
誰がマーロウでホームズだか知らないが、本気とも冗談ともつかぬことを真顔で口にする。
だけど直ちゃん御用達の美容院なんて、俺知らなかったぞ。
浩輔が前にいた会社、ジャスト・エージェンシーで浩輔と仲のよかった女の子、池山直子とも今は藤堂もすっかり馴れ合っている。
時々お使いでプラグインを訪れる直子は、大概三十分はおしゃべりしていく。
昨年の春に河崎らが独立してプラグインを立ち上げた時点では、当時まだこの社屋が建設中で、河崎のマンションを仮事務所にしていたのだが、 そこへ入ってきた青山プロダクション所属タレント南沢奈々を使った菓子メーカーのCMの仕事が、始めての大きなプロジェクトとなった。
それ以外は仕事といって、浩輔がジャスト・エージェンシーからもってきたペットフードの会社の仕事や、エリート営業マンの三浦が、規模は小さいものの、仕事を取ってくる以外、依然開拓中だった。
それにデザインは浩輔だけでこなせるわけもなく、必然的に外部のデザイナーに外注することになるのだが、さしあたってジャスト・エージェンシーの佐々木ほど腕のいいデザイナーはプラグインの周りにはいない。
いや、佐々木となると天才クリエイターが頭につくという噂だが。
可愛い弟子だった浩輔のためにもと向こうからも仕事をまわしてくれるので、河崎は苦々しい顔をしながら、佐々木とも仕事をせざるを得なくなったわけだ。
晴れて新社屋が完成した頃には、また青山プロダクション関連のCMプロジェクトを皮切りに、ぼちぼちと大きな仕事も本格的に動き始めた。
うかうかしてらんないなー
浩輔は唇を尖らせる。
そういえば、今年はチョコなんてもらえるんだろうか。
「…って、そーゆーことじゃないじゃんねー。好きな人に何かプレゼントするってのが趣旨でー」
俺がチョコなんかあげたって、河崎さんが喜ぶとは思えないし、藤堂さんと違ってあの人甘いもんに興味ないみたいだし……でも何かあげたいなー…
浩輔はその日一日思案に暮れた。
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