もう二月に入ったんだ。
巷の賑わいはバレンタインデーが近いせいだったんだ。
そういえば、去年はちょうどジャスト・エージェンシーはC社の仕事で大わらわで、何しろ、英報堂の河崎さんたちがヨコヤリ入れてきたりしたんで、みんながあたふた飛びまわっていて、夜遅くに会社帰ったとき、女の子からのチョコが机の上にいろいろ置いてあったんだっけ。
佐々木さんからのチョコも入ってたけど…。
浩輔は一年の間にいろんなことがあったんだな~としみじみ思う。
みんな、といっても、いまだにプラグインは、出資者であり、肩書きは代表取締役社長の河崎と同じく取締役の藤堂、それに英報堂で最近まで河崎の部下だった三浦章太郎とデザイナーである浩輔の四人のみである。
女子社員でも入ったら華やぐのに、と藤堂は時折ボソリと口にするが、河崎は無視している。
「そんなこと言ったら、女子に差別だって言われちゃいますよ」
三浦がにこりともせずに言う。
「客観的に言っただけだけどな。どうしたってスーツのむくつけき男ばかりだとね。まあ、浩輔ちゃんはちょっとマシだけど、俺が真っ赤なジャケットとか着てもなあ」
「やめてください、考えたくもないので」
すかさず三浦が藤堂の言葉を遮った。
まあ藤堂もどうしてもという気もないようだ。
四人とも各々やりとりすることが多いし、客がきてもそれぞれの担当者が対応し、コーヒーをセットするのも気がついたものがやることになっている。
掃除は清掃会社に頼んでいるので、社内にいることの多い浩輔も、鉢植えに水をやるとかゴミ出しくらいで、そんなに細かく気を使わなくていい。
一緒に仕事をするようになって、三浦は思ったとおり真面目なエリートだったが、河崎にしろ、藤堂にしろ、何かと再認識したこともひとつやふたつではない。
二年間そばにいたわけだからある程度は把握しているつもりだったが、河崎にはアメリカにとんでもない億万長者の祖父がいて実際のところ別に働かなくても生きていけるし、マンションをはじめとしてクルーザーだの別荘だの車だの何だって口にすれば手に入るというのはまだしも、新年の朝いきなり成田から彼の祖父のプライベートジェットでニューヨークに連れて行かれたのも浩輔の想像を絶するところだった。
だが、藤堂に関してはまた違った意味で驚かされることはしばしばだ。
意外性の人、というか…。
とにかく突拍子もないことをやる人種なのだ。
まず経理関係をどうするのか、とまがりなりにも心配した浩輔だが、そんなものは杞憂に終わった。
マーケティングが専門と思っていた藤堂はパソコンをおもちゃのようにあやつり、プログラミングから経理までちゃっちゃとこなすのだ。
しかもオフィスの内装、洗練されたコーディネイトなんかも藤堂が成した技である。
さらに彼のデータベースからはあらゆる情報が引き出せる。
先ごろ倒産したデパートが危ないと、藤堂が何気に口にしたのは、報道されるかなり以前のことになる。
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