二月十四日の東京は近来まれに見る大雪になった。
マンションのある麻布から会社まで、何かあれば河崎の車に乗せてもらうのだが、河崎は出張中で、今日の午後に沖縄から帰ってくる予定だ。
浩輔は冬用のトレッキングシューズをクローゼットの奥から引っ張り出し、地下鉄で会社までたどり着いた。
「まいったなー」
でも何だか浮かれ気分が隠せない。
スキーは下手でも雪は好きなのだ。
窓から見える見慣れているはずの風景が、雪をかぶって今日はまったく違ったものに見える。
コーヒーをいれて一息ついていると、「すんげー雪」と言いながら藤堂がやってくる。
「あれ、藤堂さん、早いですね」
「そりゃ、こんな雪が降ってるんだ、雪だるまを作らなくてどうする」
藤堂の目はいたずらっ子のように笑う。
藤堂ならほんとにやりかねない、と思っていたら、コーヒーを飲んでちょっと休むと、マフラーをぐるぐる巻きなおして、本当に外に出て行った。
「だれだ!? あんなもん、玄関の前に作ったのは!」
午後一時、帰った早々、河崎が怒鳴り散らしている。
へ、と顔をあげた浩輔は、胡乱気に玄関のドアを開けてみた。
案の定、かなり大きな雪だるまが、ポカリスエットの缶で目鼻を作ってもらって鎮座していた。
「遊び心のないやつはこれだから困るなー」
パソコンから顔をあげることもなく、藤堂が言った。
河崎が何か文句を言おうとしたその時、玄関のドアが開いた。
「浩輔ちゃん、いるぅ?」
相変わらずのんびりした口調で入ってきたのは、直子だ。
「あれ、直ちゃん、何か急ぎの仕事あったっけ?」
浩輔は小首を傾げてジーンズにスニーカーの直子を見つめる。
「今日は何の日だと思ってんのぉ?」
直子は紙袋からカラフルにラッピングされた大小あわせて十個の箱を取り出す。
「えっとぉ、ジャスト・エージェンシーの女の子から、プラグインの皆様に!」
まず、大きな包みのチョコレートの説明をする。
「すんごいねー」
思わず浩輔は来客用のテーブルに並べられたチョコレートの包みに感心する。
「あ、河崎さんは甘いものがお嫌いだというので、みんなでお酒にしました」
直子は河崎ににっこりしてから、とっくにパソコンの前から移動してきた藤堂に、「チョコレート、でーす」と差し出す。
「ライラックのじゃないからねー、ベルギー王室御用達!」
ライラックチョコレートといえば、日本でも有数の製菓会社だが、藤堂の家はその創始者一族で、今は父親が社長をしている。
「おお! 感激だー! バレンタインがさみしいから女の子入ってくれないかと思っていた矢先だったんだ!」
身振り手振りの大感激を表現しながら早速ラッピングをほどいている。
「これは三浦さん」
三浦は眼鏡の端を少し上げて、「俺にも? ありがとう」と少し意外そうにも珍しく笑った。
「えっと、こっちは浩輔ちゃん!」
「六個?」
「特大のは佐々木ちゃんの愛がつまってるのよぉ」
受け取ってから、浩輔はギクリ。
背後に河崎の苦虫を噛み潰しているだろう視線を感じる。
「えっと、義理、ってのはないから! みんな感謝を込めてます」
直子がしっかり強調した。
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