翌日は昨夜の吹雪がウソのように晴れ渡り、最高のスキー日和になった。
仕事では遅刻が多くて上司から常に文句を言われている大沢に叩き起こされ、みんなは朝食もそこそこに、午前九時にはゲレンデに向った。
「えーー、昼、十二時に、そこのカフェテリアの前に集合ちゅうことで、解散!」
佐々木、土橋、それに浩輔と美紀がスキー、大沢、直子、保奈美の三人がスノーボードと、二組に別れ、各々ゲレンデに繰り出した。
「コースケ、俺がみっちりコーチしたる、ついてこい!」
リフトに乗り込んだ途端、佐々木がのたまった。
「えー、俺、初心者コースじゃなきゃ無理ですぅ!」
どうやら、教えて、と騒いでいた女の子はスノーボードを選んでしまったようで、佐々木は張り合いがないらしい。
「男が弱音吐くんやない! 足の一本や二本折ったかて、俺がおぶってやるよって安心せえ」
「げー、そんなあああ」
リフトはやがて終点でガッタンと止まる。
「行くで、コースケ!」
シュワッッ、と軽やかな音を残し、佐々木の姿は眼前から消えた。
土橋と美紀は、浩輔を佐々木に任せて、とっくに別のコースに行ってしまった。
「えええーっ! ちょ、前、見えないっすよ!」
ほ…ほっとんど垂直じゃんかよぉ!
佐々木はスイスイと滑り降りて行く。
浩輔は恐る恐る崖っ淵にスキーを滑らせた。
「そう、腰落として、もっとブーツにぐっと膝押しつける!」
佐々木に言われる通り、浩輔はこわごわ小刻みに斜めにゆっくりと滑り下りる。
佐々木が遥か下でストックを振っている。
「佐々木さーん、置いてかないでー」
慌てて態勢を立て直し、いざ滑ろうとしたその時、ズザザッッ…と、浩輔のスキーすれすれに、風のごとく駆け抜けた影。
「うわっ…!」
もう少しで倒れそうになるのをストックで支え、浩輔が顔を向けると、黒のスキースーツに身を包んだ男が振り仰いだ。
遠くからでもかなり長身で体格がいいことがわかる。
その視線が何となく自分に向けられているような気がした。
何だろう?
胸騒ぎを押さえられない。
男に気を取られていた浩輔のスキーが後ろ向きに滑り出し、ゲェーッ!! と喚いた時は、天と地がひっくり返っていた。
「コースケ!! おい、大丈夫か?」
浩輔が倒れているところまで、佐々木が登ってきた。
「ハァ…何とか…生きてますぅ…」
再び顔を上げた頃には、黒いスキースーツの男は影も形もなかった。
何だったんだろう、いや、誰だったんだろう?
俺を見てたなんて、考え過ぎだよな…。
何故か唐突に一人の男の顔が頭を過ぎる。
忘れようとしても未だに忘れることができないその名を思い浮かべるたび、キリキリと心が軋む。
あー、もー、俺ってどーしよーもねーな。
浩輔は自分に呆れて首を振った。
「どないした? 浩輔?」
顔を覗き込まれた浩輔は、サングラスを外した佐々木を見上げると、先ほどの胸騒ぎも忘れて、今日もきれいだな、などと一瞬見とれてしまう。
「いいえ! じゃ、行きます!」
「お、気合入ってるやん、よぉし、昼前にあと三回はいけそやな」
「え……あと、三回ぃ……?」
言葉は優しいが、言ってることはかなり厳しい佐々木の笑顔に、浩輔は思い切りため息をついた。
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