act 3
久々太陽が顔を出した日の昼過ぎ、千雪がまたふいにオフィスに現れた。
ちょうど、工藤も良太もいて、アスカや所属俳優の小笠原、それに秋山や小笠原のマネージャー真中もオフィスに立ち寄ったところだった。
「あら、いいところに現れたわ、名探偵、ちょっと何とかしてくんない? 世の中暖冬だってのに、このオフィス、冷え冷えとして無闇に寒いのよ」
なかなか修復しない工藤と良太の間の亀裂にあてこすり、アスカがぶつぶつ文句を言う。
「暗雲垂れ込めてる? なかなか動きそうにないで、これは」
千雪は黙々とパソコンのキーを叩く良太と、電話で怒鳴り散らしている工藤を見て、こそっと呟いた。
工藤の電話が終わるのを待って、千雪は工藤に声をかけた。
「お疲れ様です。実はお願いがあって」
「お願い?」
工藤は訝しげに千雪をみつめる。
「はあ、実は次の小説が煮詰まっとって、どうせドラマのロケハン行かはるんですやろ? ほなら気分転換に俺も猪苗代行こ思て。ほんで、どうせならドラマの打ち合わせはそっちに来てもろた方がええかて。せやな、明日か明後日のうちに」
「何だと?」
千雪のいきなりの申し出に工藤の眉間のしわがどっと増える。
「俺、今夜はここにいますから、また携帯にでも連絡ください。ほな、急ぎますんでよろしゅうに」
工藤に文句を挟ませず、千雪は今夜滞在するという郡山のホテルのメモを残してオフィスを出て行った。
「まったく、何を考えてるんだ、あいつは」
工藤は言った。
だが、仕方なくスケジュールを調整し始めた。
「明日、俺は福岡から五時頃、福島空港に飛ぶ」
「工藤さん、猪苗代ならいいホテル知ってますよ。セッティングしておきましょうか?」
秋山が立ち上がって口を挟んだ。
「頼む。取れたらまた連絡を入れてくれ」
千雪さんのためなら、スケジュールも組みなおすんだ?
そんな工藤が良太はまた面白くない。
工藤はまもなく出かけた。
一昨日の朝以来、オフィスにいてもほとんど言葉を交わしていない。
もう、半永久的に口を聞くつもりがないのかもしれない。
こっちこそだ、もう、勝手にしろだ。
ところがその良太にも夕方になって千雪から連絡が入った。
「はあ、郡山、ですか……」
時間がないので、郡山の駅や市民ホール、駅前にはおいしいラーメン店などがあるから軽く取材して情報を仕入れて、こっちに来て欲しいというのだ。
「どうした? 良太」
珍しく一人残って、オフィスのパソコンを使っていた秋山が振り返る。
「はあ、それが……」
困った、と良太は口にする。
「郡山? そうか、千雪先生、今回かなりせっぱつまってるとみえるな、原稿。だが、大事な作家殿のためには工藤さんもスケジュール調整したんだ、良太も何とかしないわけには行かないだろう」
「そうですよねぇ、でもどうしよう、俺、明日明後日、ミナト生命行く予定になってて」
「わかった、俺がそれ、引き受けよう。工藤さんは福岡から明日直接福島空港に飛ぶって言ってたな。良太はどうやっていくの?」
秋山はありがたくも気軽に引き受けてくれる。
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