雪のデカダンス13

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「はあ、車のほうがいろいろ動いてもらえるからって、千雪さんが」
「そうか。ああ、ナータンのこともまかせなさい」
「え、いいんですか?」
 猫の世話まで引き受けてくれるとか、良太は秋山を拝みたくなった。
「任せなさい。鍵さえかしてくれれば」
「あ、はい」
 鍵を渡そうとしてはたと、良太は自分の部屋の有様を思い出す。
「あの、そうだ、こないだ平造さんが俺の部屋を改造してったらしくて、前とちょっと変わってるけど、気にしないで」
 社員なら、良太の部屋を一度くらいは覗いたことがあるはずだ。
 いきなりあんなゴージャスになっていたら驚くだろう。
 まあ、ひょっとしたら部屋はまた元の安っぽい家具に変わっているかもしれないが。
 
 
   
 
 翌日、関東地方はよく晴れていた。
 良太はジャガーを駆って東北自動車道を北へと走っていた。
 郡山へは東北自動車道で三時間半。
 猪苗代はその郡山から磐越自動車道に入って約一時間だ。
 道さえよければ車のほうが良太としてもラクだ。
 郡山に近づく頃になると雪が降り始めた。
 タイヤはスタッドレスに替えてあるが、一時的に強い冬型になるという予報だった。
 ひょっとして、猪苗代あたりは雪がすごいかもしれない。
 郡山までは快適に飛ばしてきた。
 郡山に着くと、まず千雪に言われた駅前の美味しいラーメン屋に入って腹ごしらえをする。
 中は混んでいて、地元の客に混じってカラフルなジャケットを羽織ったカップルが賑やかにラーメンを食べているのが目に入る。
 さしずめ東京あたりから来たスキー客だろうか。
 静御前堂や雪村庵、郡山公会堂などを車で回り、デジカメに写真を収め、ちょっと関係者の話を聞いたりして、生真面目に良太はメモを取る。
 最後に駅に向かおうと車に戻った頃、雪が強くなった。
 車が走り出した直後だ、近くを歩いていた男がうずくまるのが見えた。
「大丈夫ですか?」
 気になって車を降りた良太が駆け寄ると、男は苦しそうに腹の辺りをおさえている。
「病院、救急車呼びますね」
「いい! 持病だからほっといてくれ」
 男は痛みをこらえながら搾り出すように言う。
 しかし放っておけず、良太は肩を貸して車へ連れて行った。
 やがて少し落ち着いたらしい男が、「すまない、かなり楽になった」と言った。
「そうですか? あ、俺、広瀬っていいます。これから郡山の駅に寄ってから猪苗代の方に向かうんですが、よかったら家まで送りますよ」
「猪苗代に行ってみるのもいいか……」
 男はぼそりと言う。
「じゃあ、猪苗代まで送りますよ、旅は道連れって言いますし」
 男は苦笑いして、坂本と名乗った。
 とその時、車内に『ワルキューレの騎行』が響き渡った。
「はい、お疲れ様です。え、もう着いたんですか?」
 工藤とまともに話すのは久しぶりという感じだ。
「こっちはこれから荒れるらしいんで、早い便にしたんだ。今どこにいる?」
「郡山です」
 郡山で駅に寄ってから猪苗代に向かうと告げると、JRの磐梯線が途中雪崩で不通になっているらしい、と工藤は言う。
「雪崩? 磐越道は大丈夫ですか?」
「今のところはな。だが、こっちはかなり吹雪いている。気をつけろ」
「あ、はい、わかりました」
 どうやら心配して電話をくれたらしい工藤の言葉に、ちょっとばかり嬉しくなっている自分に良太はお手軽なやつ、と突っ込みを入れる。
 

 


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