良太はこのまま中にいるという坂本を乗せたまま車を駐車場に置いて、駅に向かった。
全景、細部と写真を撮り、駅弁などを買ってから車に戻ろうと歩きかけたところで、若い女が駅員に向かって喚いているのが聞こえた。
「ちょっと! もう一時間も待ってんのよ! いったいいつ動くのよ!」
「はあ、申し訳ございません、復旧にはもう少々時間がかかる予定でして……」
なまりの強い言葉で、懸命に駅員は女に頭を下げる。
「あたしは今日中に、猪苗代湖に行かなきゃいけないのよ! だいたい、暖冬だ、っていうからきたのに、何でこんな吹雪で、しかも電車動かないのよ!」
「はあ、申し訳ございません、ただいま急ピッチで復旧作業を進めているところでございまして…」
気象のことを駅員に文句つけてもしょうがないだろうと思いながら、良太は女に声をかけた。
「あの、猪苗代に行かれるんですか?」
郡山から東北自動車道に入ろうと思った良太だが、積雪で通行止めのため、国道四十九号線経由で向かうことにした。
坂本は後部座席だが、アキ子と名乗る女はちゃっかりナビシートにおさまり、いい車じゃないとか、何をしてるのとか聞いてくる。
「はあ、これ、社長の車なので」
「あら、そう? 何の会社?」
テレビ関係の仕事だと正直に答えるとさらに女は突っ込んで聞いてくる。
「わかった、ADでしょ? ドラマとかやってるの? 芸能人誰か知ってる?」
辟易した良太が逆にこんな雪の日に猪苗代湖へ何をしに行くのかと聞いてみる。
「あの湖が好きなの」
アキ子はさらりと言って、それきり口をつぐんでしまった。
また雪が強くなってきた。
時刻は四時頃だが暗い空だ。
「猪苗代湖って綺麗なのよ。死ぬのにはもってこいよね」
唐突にアキ子がそう口にするのを聞いた良太は驚いた。
「え、何言って………」
その直後だ、降りしきる雪の中、前方に手を振っている人影が見えたので、良太は減速して車を停めた。
ダイヤル式のギヤチェンジは最初は苦手だった。
とっくに慣れたもののセカンドに落とすよりこの積雪なので、いっそスノーモードにして走っていた。
「なんだ、どうせチェーンがかけらんないとかじゃない? ほっとけばいいのに」
アキ子は路肩に寄せて停まっている車と傍に立つ若い男女を見て言った。
良太はやはり困っているらしい二人を見過ごせず、車を降りて、「どうしました?」と声をかける。
「タカがラーメンなんか食べようなんていうからよぉ」
「何言ってんだよ、ルミだって美味しい美味しいとかって大盛食ってたじゃねぇか」
二人の会話を聞いて、ああ、と思う。
駅前でラーメンを食べていたカップルのようだ。
車がパンクして動けないという。
ルーフキャリアを積んだ紺色のシビックは降りしきる雪に埋もれそうになっていた。
「ロードサービス呼びました?」
「さっき呼んだけど、今日依頼多くてなかなか来られねぇって、兄貴の車だからさ、前っからタイヤ古いっつうのに換えてねんだからよ、兄貴」
タカと呼ばれていた男が良太に答える。
「もう寒くて死にそう! ねえ、お願い、乗っけてってくんない? 猪苗代スキー場の近くのホテルまで」
甘ったれた声で、男がルミと呼んだ若い女が良太を拝むように手を合わせる。
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