「まあ、いいですけど……あ、でも二人乗ってるんで、ちょっと狭いっすけど、後ろに三人で」
そう良太が言うが早いか、「サンキュ、あ、あたしルミ、あいつはタカ」と女の子はさっさと後部座席に乗り込んだ。
タカの方はシビックの屋根からボードを積んでいるルーフキャリアをおろし、「え、ちょ……」と焦る良太に有無を言わせず、キャリアごとジャガーの屋根にちゃっかり積み上げてしまう。
「よっしゃ、OK」
何がOKだよ! 勝手に!
取り外し式のソフトキャリアなので車体に傷はつかないだろうが、解けた雪が社内に流れ込むようなことはないのかと、良太は心配する。
「ねえ、トランク開けてよ」
図々しいなどという言葉すら知らないのだろう、良太が渋々トランクを開けるとタカは自分たちの車のトランクから荷物を取り出してジャガーのトランクに移しかえる。
仕方ないな、と運転席のドアを開けようとしたとき、良太のポケットで携帯が鳴った。
工藤がホテルに着くのが何時頃になるか、聞いてきたのだ。
「すみません、実は、途中で車パンクしちゃった人がいまして、乗っけていくことになっちゃいまして」
「ばかやろ! んなもん放り出して、とっとと来い!」
こちらも容赦なく叱りつけて切ってくれる。
「ちぇ、人には親切にって学校で習わなかったのかよ」
ブツブツ言いながら、良太は車に乗り込んだ。
せっかく何日ぶりかで工藤とちゃんと顔を合わせるから、少しはましな話をしようなどと思っていたのに。
カップルがデジタルプレーヤーを取り出してこれを聞かせろとか、ナビが最新式だなどと、後ろから身を乗り出して言うのに、ナビシートのアキ子が、「あんたたち乗せてもらってるのよ、ちょっと静かにしなさいよ」とビシリ。
「ちぇ」
「だって音がないとつまんないんだもん」
良太が不承不承タカから渡されたデジタルプレーヤーをUSBに差し込んだ。
だが大音響でヘビメタが流れるなり、アキ子が「うるさい」とすかさず消してしまう。
仕方なく良太がFMを入れれば、今度は『あなたを殺して私も…』などという演歌が流れ、アキ子は「何よ」とチャンネルを変える。
そこで流れ出したのはピアノの音が小気味よい透き通ったボーカルだ。
アキ子はようやく納得したらしく、チャンネルから手を離した。
若者たちの騒ぎには無頓着に、後ろの男は寡黙にただ窓の外に視線を泳がせている。
そうこうしているうちに雪は強くなり、ワイパーをフル稼働させざるを得なくなった。
時刻は既に五時をまわっていた。
カップルに親切心を出したお陰で、時間をくってしまった。
工藤が怒るのは当たり前だろう、とんぼ返りするつもりだったようだし。
そこではたと良太の脳裏に隣に座るアキ子の問題発言がフィードバックした。
おい、死ぬとかなんとか、言ってなかったか?
「ねえ、ホテル猪苗代リゾート、ナビ入れて」
「へ?」
後ろのルミが声をかけた。
「今夜、そこ泊まるんだ」
能天気な答えを返すルミの顔を良太はバックミラーで見ながら、もしここに工藤でもいれば、甘ったれるな、とかなんとかとっくに雷のひとつも落としていそうだと思う。
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