だがそこは、無暗に怒鳴りつけたりできない良太のこと、ナビをセットしようとすると、後ろから声がかかった。
「猪苗代ICから十分だ。出て右」
「坂本さん詳しいんですね、ひょっとしてこちらのご出身とか?」
しかし坂本は良太の質問には答えないで黙っている。
それにしても雪がひどい。
行き交う車もスピードを落とし、ライトで何とかわかるものの、かなり近づかないと車種さえわからない。
ハンドルをしっかと握り、のろのろと車を進める良太は、学生の頃はちゃらちゃらしたお姉さんたちに連れられてスキーに行ったこともあったな、などと思い出す。
人のことは言えないか。
あの頃は何も考えていなかったからな。
ようやく猪苗代ICで磐越自動車道を降り、じっと目を凝らして降りつける雪の向こうを睨みつけながら、ルミに言われたホテル猪苗代リゾートを目指して猪苗代町内に車を走らせる。
少し坂を上がったところでホテルの看板を見つけてほっとした良太のポケットでまた軽やかに携帯がなった。
ワルキューレではないし誰だろうと思いながらホテルのエントランスに着くと、良太は着信履歴を見て慌てる。
「げ、千雪さんだ……」
トランクを開け、タカとルミが荷物を取り出すうち、良太も車を降りて携帯で急いで千雪に電話を入れる。
「良太? 今どのあたり?」
暢気そうな千雪の声が返ってきた。
「あ、すみません、連絡いただいて。今、ホテル猪苗代リゾートです。途中で乗せた人たち送ってきて。すぐに向かいますから」
「ああ、パンクしたっていう?」
千雪は電話の向こうでくすくす笑っている。
「ほな、ゆっくりでええから、こっちきてや。雪すごいし、工藤さん、事故ったんやないかって心配してはるし」
「社長が、んな、心配なんかするもんですか。どうせ遅いとかって怒ってるんでしょ。それじゃ、俺……」
言いかけて車の中へ何気なく目を向けた良太は、後部座席で苦しがっている坂本にナビシートからアキ子が必死で声をかけているのに気づいた。
「あ、すみません、じゃ…のちほど!」
良太は携帯を切ると、ドアを開けて男に声をかける。
「坂本さん! 大丈夫ですか?」
脂汗を流して唸りながら身体を捩る坂本が大丈夫であるはずがない。
「この近くに病院あるわ! 救急車呼ぶより早いから」
そう言ったのはアキ子だ。
「おっさん、苦しそ…」
「大丈夫ぅ……?」
タカとルミの二人はエントランスのドアの前でなすすべもなく、車の中の男を見て立ち竦んでいる。
「どうされました?」
ホテルの従業員もやってきたが、すぐに病院を教えてくれた。
「そこ、左」
アキ子は信号の手前で良太に指示する。
アキ子もこの地方の人間なのか、と良太は漠然と思いながら車を病院の外来入り口につける。
「ちょっとストレッチャー持ってきて、急患!」
アキ子は先に病院に飛び込むと、近くにいた看護師に言った。
「大谷さん!」
「アキ子じゃない! こっちに帰ったの?」
数人の看護師がアキ子に声をかける。
坂本をストレッチャーに乗せるのを手早く手伝うアキ子に良太は、「君、看護師さん?」と聞く。
アキ子はそれには答えず、「久保先生いる?」と聞きながら、ストレッチャーとともに奥へと消えた。
良太はアキ子のことが何となく気になり、通りがかった看護師に声をかけた。
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