雪のデカダンス5

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「どうしたんですか? この仔猫たち」
 まだ生まれてひと月経っているかどうか、とてとてと動く小さな生き物を良太は見つめた。
「拾ってん。近くのゴミ置き場で」
「またお前はそんなもん拾ってきたのか」
 工藤が千雪を咎めるように口を挟む。
「ニンピ人の工藤さんはだまっとってください。大体、怪我した犬を助けよういう声はたちまちあがるのに、不要やなんていわれたペットたちを何匹も殺している事実を黙認してる理不尽さが腹立たしい」
 千雪は断言する。
「もし俺がゴミ置き場に捨ててるヤツをこの目で見たら、そいつを殺す完全犯罪考えたる」
「んな、過激な…」
 クールに口にする千雪に、良太は今度はため息をつく。
「一匹、入院中やね。風邪で目やにがいっぱいくっついて、失明寸前やってん。病院連れてって、何とかして目ぇ治せ、て脅したったら、センセ、まあ何とか目やにとってくれて、もう大丈夫やろて」
「千雪さん……」
 クールで見た目はたおやかそうなのに、やってることは工藤とあまり変わりないのでは、と良太は千雪に対する見解をあらたにする。
「出かける」
 良太たちが仔猫にかまけているうちに、いくつかの電話をかけていた工藤はコートを掴み、ドアに向かったが、「そうだ、千雪」と振り返る。
「KBCで急遽四月にドラマオンエア決まったから、来週のうちにスポンサーサイド主催のプロモーションイベントがある。顔を出してもらうからそのつもりでいろ。『花の終わり』だ。近々、猪苗代あたりロケハンに行く」
 そういい残すと、工藤は千雪の返事も待たずにオフィスをあとにした。
「あれやもんな、俺の返事は必要ないんやから」
 千雪が呆れてため息をつく。
「映画、いよいよ公開ですね。前評判よかったから、KBCもドラマ、前倒しにしようって魂胆なんですよ、MBCに負けていられないってね」
「まあ、映画やドラマて、俺の手を離れてるし、あんまし俺自身には関係ない気ぃしますけど」
 小首を傾げて、千雪は声をかけてきたアスカのマネージャー秋山に答える。
「まあ、それにしても工藤さんたら、お茶も飲む暇がないのかしら」
 鈴木さんが心配そうに工藤の出て行ったドアを見つめた。
「あれじゃ、からだを壊してしまうわ」
 鈴木さんだけでなく、それはみんなが思っていることだった。
「工藤さん、もう夏からずっとろくに休みなんてとってないよな」
 秋山が言った。
 空港からの道中も電話をかけるか受けるかで、良太もまともに話もしていない。
「なんか、追い立てられるように仕事やったはるし、ええ年なんやから、もちょっと考えたらええのに」
 千雪も腕組みをして感慨深げに言った。
「そういえば、良太、ドキュメンタリー、よかったで。久々感動や」
「ほんとですか?」
 うなずく千雪に、良太は嬉しさを隠せない。
「けど、良太もあんましワーカホリックになったらあかんで。どっかで工藤さんと旅行でもいってきたらええ」
「いやあ、俺のことはいいんですけどね、工藤さん、たまには温泉でも行ってゆっくりしてもらいたいですよね」
「温泉か、それはええよな」
 千雪がうなずく。
「いけね、俺も出かけなきゃ」
 壁の時計を見た良太も打ち合わせの時間が迫っているのに気づき、工藤の後を追うようにドアに向かう。

 


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