「彼女が戻ってくるんですか……これはひと波乱あるかもしれませんね」
秋山がうーんと唸る。
「やあね、秋山さん、やっぱりタヌキだわ。ちゃんと知ってるんだ、工藤さんとのいきさつ」
「タヌキはやめてください。一応、この業界で会社に関係あることは頭の中に入っていますよ」
淵無しメガネの奥で何を考えているか計り知れないポーカーフェイスは端整で、常に控えめだし、派手なルックスの工藤の影に隠れてはいるが、キレモノであるのは確かのようだ。
「メグって、昔、人気あったモデルのこと?」
まだ泣き声すらか弱い小さな仔猫を窓辺のテーブルで遊ばせていた千雪が二人の話に割って入る。
「あら、ユキってば、よく知ってるじゃない。ああいうの、興味あり?」
「十年ほど前の話やろ、それって」
猫とカップを両手に持って立ち上がり、千雪はアスカの隣に腰を下ろす。
「さすがの工藤さんも追いかけられて、往生したはった」
「何よ、ユキ、知ってんの? あの時のこと」
驚いてアスカは千雪の顔を覗き込む。
「知ってるいうわけやないけど、あの頃たまたま映画の話があって、このオフィス寄った時や、あの人が突然きはって、工藤さんに抱きついて泣かはるし、俺、面倒に巻き込まれとうなかったから、帰ろ思うとったら、工藤さん、いきなり今の相手は俺やなんて言うもんやから、あの人逆上しはって俺にぎゃあぎゃあくってかかるしでとにかく取り付く島がない、いうか。工藤さんが事務所の人呼んで、つれて帰ってもろたけど、とにかく工藤さん、あの人と切るために俺のこと利用しはって、ほんま、あの時のことは思い出しても腹立つ!」
カップのお茶を飲み干して、千雪は眉をひそめる。
「うっそー、そんなことあったの? 工藤さんに新しい相手ができて芽久が捨てられた、って、あれ、ユキのこと?」
目を輝かせてアスカは千雪ににじり寄る。
「面白がらんでもええわ、俺のことやのうて、ただ利用されただけやし」
「うーん、でもまんざらウソでもなかったでしょ、工藤さん、あの頃は」
鈴木さんが出してくれたクッキーをつまみながら、アスカは一人うなずく。
「でも、相手がユキだったらねえ、また別の話だけど、良太だから困るのよ。芽久、まさかとは思うけど、工藤さんに絡んでこないわよねぇ」
今度は首を横に振り、しみじみとアスカは呟いた。
「あり得ないとはいえませんね」
秋山も難しい顔で言った。
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