雪のデカダンス8

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    act 2
 
   
 アスカたちが山之辺芽久の噂をしたその三日後のことである。
 福岡から戻った工藤は良太を連れてドラマのプロモーションのため、赤坂帝都ホテルに赴いた。
 KBCから急遽、前々から決まっていた小林千雪の作品のドラマ化が早まったという連絡を受けたのは数日前だ。
 一昨日打ち合わせのため、良太を連れてKBCに赴いた時は、まだゲスト主役が決まっていなかった。
 だが、局の上の方で、何やら動きがあるとは聞いていた。
 千雪原作の映画が前評判もよく、おそらくドラマの話もKBCかMBCどちらかからあるだろうと工藤は思っていたが、いつもは顔を出さない千雪にぜひ今回はスポンサーサイド主催のプロモーションイベントにも出席してもらいたいという。
 KBCのドラマは、工藤プロデュースだが、制作は広告代理店英報堂関連のEプロモーションだ。
 キャストは映画と同じ志村嘉人が若手弁護士海棠役、老弁護士の御園生は七十代ではあるが大物の実力派多喜川誠が演じている。
 今回の『花の終わり』では海棠の昔の恋人という設定で重要な鍵を握る人物が登場する。
 古狸どもめ、ちょっと売れてるからって可笑しなガキの女を連れてくるんじゃあるまいな。
 工藤は危惧していた。
 だが、まったく別の方向からハプニングが起きようとは、工藤も知る由もなかったのだ。
 ハプニングはこのドラマのプロモーションイベントのためにマスコミが集まり、原作者の小林千雪が工藤の横に、関係者が中央に立って記者会見が始まるその数分前に起きた。
「高広!」
 渋い英国製のスーツに身を包み、一番端の後ろに良太とともに立っていた工藤は、その声にの方へ目をやった。
 まさにその時、ひらりと白いシャツの袖が舞い、ジーンズに高いヒールを履いたブロンド美人が袖から現れ、一瞬躊躇した隙をついて工藤に抱きついてキスした。
 さすがに頬に、ではあるが、たちまちフラッシュがたかれ、インタビューが始まる前に、会場は騒然となる。
 あっという間のできごとで、良太も唖然。
 同席していた千雪もそれを目撃したが、誰も動くこともできない。
 その昔、ちょっと遊びのつもりでえらく面倒を被った覚えのある工藤にいたっては、ため息ものだった。
 その後、しどろもどろの局部長の言い訳のあと、山之辺芽久をゲスト主役に迎えるということでインタビューは始まったのだが、SNSでこの様子はあっという間に拡散され、夕刊、それに翌日のワイドショーのネタはその前に決まったようなものだった。
 当然、その帰りの車の中では良太と工藤の間の空気はキンキンに冷え、工藤は弁解するのも面倒になり、スポンサー企業のビルの前で車から降りる寸前に言った。
「いいか、あの女とのことでくだらない想像はするなよ」
 それには返事もせず、良太は工藤を残して車を発進させた。
 
   
 
 
 千雪から連絡を受けて、撮影の合間スタジオの控室でホテルでのプロモーションイベントのいきさつを聞いた秋山は、珍しくため息をついた。
「叩けばほこりが舞い上がるとは思っていたが」
「何のほこりよ?」
 鏡の前でメイクを直してもらっていたアスカが聞いた。

 


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