「工藤さんの女性関係ですよ。やってくれましたよ、一番厄介な相手が」
「え、芽久のこと? やっぱり何かあったの?」
メイクさんが控室を出て行くと、秋山はアスカに千雪から聞いたことの仔細をかいつまんで話した。
なるほどね、と言うなりアスカもため息をつく。
「どおりで今日の良太、静かだったわけね。あの子、すぐ顔に出るから」
オフィスに立ち寄った時、挨拶以外ほとんど言葉を発しなかった良太を思い起こし、二人はまた社内の空気が険悪になることを懸念しているのである。
そうなるとオフィスで良太をからかうことをストレス解消にしているアスカも仕事に身が入らなくなり、悪循環が始まるのだ。
「田所はこないだの衆議院選挙の時なんか、いかにも内助の功してますってな感じで旦那の横でにこにこしちゃって、とっくに工藤さんとは切れてるでしょ? マダム加絵はまあ昔の話だし、ひとみさんは悪友になっちゃってるし、室井は深入りするつもりはなさそうと」
指折り数えるように、アスカは話し出す。
「真帆は小物過ぎて相手にならないし、ルクレティアは今は面白がってからかってるだけ。こないだのアメリカから戻ってきた女医はちょっとワケありだったけど、実害はないみたいだったし」
「まあ、あれだけの男だし、昔は入れ食い状態だったみたいだからな」
アスカが工藤に絡んだ女性の名前を一人ひとり上げていくと、感心したように、秋山が言う。
「でもきっと、工藤さんが過去本当に愛していたのは亡くなったちゆきさんだけなんじゃないかな」
「あら、ユキには随分ご執心だったのよ。ともかく、どうしてこう次から次へと昔の女がやってきてひと悶着起こすわけ?」
工藤が小林千雪の映画をプロデュースしたというだけで青山プロダクションに移籍した過去を持つアスカがユキと呼ぶのはその小林千雪のことである。
苛立ちを隠そうともせず、アスカは眉をひそめながらすんなり長い脚をくむ。
「特に芽久は問題よねぇ」
「でも、さすがに芽久もおとなだし、これはひょっとして事務所の思惑もあるのかもしれませんよ?」
「まあ、それもあるかも。でも、良太にはそんなこと関係ないのよ」
まさしくその通り、打ち合わせの途中ですら、良太はまた芽久と工藤のキスシーンを思い出してしまっていた。
いつものことさと、なるべく考えないようにと思うのだが、かつての工藤と芽久の話題など外野がいらぬ情報を良太にもたらしてくれる。
「さすが、鬼の工藤だよな、トップモデルもイチコロ? 見たかよ、こないだのスポーツ紙、一面、山之辺芽久、工藤、再燃! とかってさ」
『パワスポ』の打ち合わせに行けば、早速大山が芽久と工藤のことを揶揄する。
「面白い記事がないから、勝手なでっちあげです!」
特に良太が一番触れたくないことを大山はああだこうだ言うので、つい、良太も声を荒げてしまう。
疲れて帰って、思考能力がゼロに近い時でも、ふいに芽久と工藤のあのシーンが目の前にチラついて、良太はため息で苛立ちを静めようとした。
これまでにも何人もの女が工藤の周りに現れた。そのたびごと、良太の心は飛んだり跳ねたり、てんで休まる暇がない。
でも、好きなんだからしょうがないじゃん。
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