何となくクリスマス!4

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「お疲れ様でした~」
 車を降りて、良太は、『トンネルを抜けると雪国だった』なる、最近千雪に勧められて読んだ川端康成の『雪国』の冒頭が頭に浮かんだ。
 吐く息が白い。
 トンネルではないが、夜だし車の中なので雪の実感があまりなかったのだが、実際踏みしめて歩く雪のきゅっきゅっという音と、冷たい雪の感触、道路の両側の雪壁に、久々単純に雪国を連想した。
「今年初めて見る雪だ」
 良太は呟いた。
「え、ここですか?」
 公一に案内されてやってきたのは、どうみても近代的でスタイリッシュな建物だ。
「あ、山小屋には明日案内します。今日はとにかく、コンドミニアムでゆっくり休んでください」
「え、それは、どうもありがとうございます。なんか、至れり尽くせりですね」
「最近、東洋グループで、このニセコのコンドミニアムも建てたんですよ。レンタルだけじゃなくて、社員の保養所パートツウってとこ?」
 公一はカートを持って良太を玄関に案内した。
 ドアに大きなリースが飾ってあるし、明かりがついている。
 公一がドアフォンを鳴らすと、やがてドアが開いた。
「いらっしゃい! お疲れでしょう、どうぞお入りになって」
 中から現れた女性は年の頃は三十代くらいだろうか、明るい笑顔の優しい声の主だった。
 と、すぐにまた奥の方からバタバタと走ってきたのは男の子だった。
「なんだ、京助じゃないのか」
 男の子は不遜にのたまった。
「京太、ちゃんとお客様にご挨拶しなさい!」
 女性に窘められて、男の子は「いらっしゃい」とちょっと頭を下げる。
「あ、すみません。私、井上咲子と言います。綾小路さんとこのお手伝いをしてます。こっちは息子の京太です」
「はあ、はじめまして、広瀬良太と言います」
「さ、中へどうぞ。お食事の用意できてますよ」
 まさか、そんなことまで用意万端整えてくれていたとはと、良太は感心しきりだった。
 しかも、リビングに入ると、大きなクリスマスツリーが出迎えてくれた。
「俺が飾ったんだぜ」
 京太が自慢げに言った。
「おお、すっげ! クリスマスだ!」
 良太は単純に感激した。
「あらでも、お二人ってお聞きしてたから、お食事も二人分ご用意したんだけど」
「ああ、すみません、工藤はちょっとこられなくて」
 工藤もさすがにこれは予測していなかっただろう。
 同時に、工藤がいたら、ほんとに二人だけのクリスマスだったのに、と良太は残念にも思う。

 


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