何となくクリスマス!5

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 カートを運んでくれた公一に案内された部屋は広い寝室で、クイーンサイズのベッドが二つ並んでいる。
「この部屋が一番広いんで。眺めもすげえいいですよ。明日帰っちゃうのもったいないなあ、スキーもできないんだ」
「いやあ、ほんと、こんないいとこなら二、三日はいたいけどね。仕事が終わんないと年明けないんで」
 公一は笑った。
「でも、来年も京助さん、スキー合宿やるんで、また遊びましょうよ」
「スキー合宿、楽しいよな。日程が合えばぜひ参加したいな」
 ここ二年続いて一月の終わりから二月にかけて、軽井沢の綾小路家の別荘に京助が仲間を集めて開催しているスキー合宿に、良太も参加したのだが、今年の合宿には工藤も珍しく参加したし、あの工藤が風呂掃除をしたりするのをその時良太は初めて見て、天変地異でも起きなければいいがと半分本気で思ったものだ。
「うわ、すんごい!」
 我ながら語彙がないと思いつつ、先に風呂に入って来いと公一に言われ、のんびり湯に浸かってから、いい匂いにつられてやってきた良太はリビングのテーブルに並んだ豪華な料理を見て感嘆した。
 メインは暖かそうなビーフシチュー、お刺身、茶碗蒸し、ブリの照り焼き、筑前煮、サーモンのカルパッチョ、などなど和洋取り交ぜた家庭料理という雰囲気で、良太は眼を輝かせた。
「美味しそう!」
「どこかのシェフの料理というわけではなくて申し訳ないんですが、どうぞ召し上がってください」
「ありがとうございます!」
 良太は礼を言って座ったが、シチューはまだ盛られてなかったが、向かいにも一揃い同じメニューが並んでいるのに気付いた。
「あの、すみません、俺、一人なんですけど……」
 良太はすまなそうに咲子を見た。
「あ、それが工藤さん、タクシーで今こちらに向かってらっしゃるって連絡があったんです。あと三十分くらいで着くって」
「え、ほんとですか?」
 やはり紫紀にチケットから何から歓待してもらって申し訳ないと思って、名古屋から飛んだんだろうか。
 それはそれで工藤もきついのではないかと良太は一応思いやる。
 だが、反面工藤が来るということに一気に感情のボルテージが上がる。
 その頃、工藤は雪が強くなってきた中、タクシーでニセコに向かっていた。
 その間も、配信ドラマのキャストの件でネットプライムのプロデューサーから電話がかかってきていた。
「それは無理です。いくらスポンサー推しでも小山内はそこまでの度量がない。オーディションであなたも見たはずだ」
 今撮影が進行中のドラマに、途中からのキャスティングで小山内一真という人気俳優を押すスポンサーにノーと言えず、担当の杉浦は何とかならないかと工藤に泣きついてきたのだ。
 途中からとはいえ、かなり重要なポジションを任されることになる役柄で、外資系スポンサーの広報担当者はCMに起用していた小山内と面識があり、小山内をぜひにと言って譲らないと言う。
「いや、それに、言ってることは大体わかるんだが、早口で英語で捲し立てられると弱くて」
 そんなんでよくプロデューサーなんかやってるな、と口にしそうになるのを危うく抑えて、「何なら私が話しましょうか?」と工藤は提案した。

 


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