何となくクリスマス!3

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 とはいえ、毎年、工藤の行きつけのバー、『オールドマン』にはオーナーの前田に、工藤へのお歳暮として、ロンサカパXOを入れてもらっている。
 クリスマスプレゼントとしないところが味噌であるが。
 工藤の誕生月の八月には、工藤へのお中元としてブランデーのボトルを入れてもらった。
 ここ数年、良太の工藤への意思表示はその程度だ。
 まあ、バレンタインデーには、工藤に届くたくさんのプレゼントのどさくさに紛れて、何か小物を母親が送ってくれたブランデーケーキなどと一緒に渡したりしているが。
 にしても、いくら映画のスポンサーで千雪さんの従姉の夫だからって、飛行機のチケット代、紫紀さんのポケットマネーなんて普通ないって。
 けど、そんなもの紫紀さんがこっちに請求するわけないし。
 不思議と、工藤って藤田会長もそうだけど、紫紀さんにも気に入られてるし。
 考えてみるとおかしな男だよな、工藤って。
 まあ、冬の札幌、一人で散策ってのもいっか。
 などと勝手に思い巡らせていた良太に、「ああ、山小屋ってのは札幌じゃなくて、ニセコだからな」などと付け加えて、工藤は、出かけてくるとオフィスを出て行った。
「は? ニセコ~?! って札幌から車で二時間じゃないっすか!」
 良太が喚いた頃には既に工藤の姿はなかった。
 翌日の午後には、打ち合わせの後そのまま羽田に行けるようにと、カートに着替えや防水の雪用ワークブーツなどを入れ、猫の世話をまた鈴木さんにお願いして会社を出てきた。
「何もニセコの山小屋なんか使わなくても、東京にあるいつもドラマで使うような怪しげな建物にしてくれたらいいのに」
 確かに紫紀のポケットマネーから出ているに違いない、JALビジネスクラスのゆったりした席で、良太はブツブツとまだ千雪への文句を口にしながら、機上で良太は映画化されるという原作を読み始めた。
 読みだすと面白くて、一時間半ほどのフライトはあっという間に過ぎ去り、良太は小雪のチラつく新千歳空港に降り立った。
 タクシー乗り場に向かおうとした良太は、「あ、良太さん、お疲れ様です~」という聞き覚えのある声に振り返った。
「公一さん、え、まさか、迎えに来てくれたとか?」
 大学を卒業し、綾小路の家で父親である執事の藤原の見習いをしている公一は、最近、近くのマンションに独り暮らしを始めた陽気な若者だ。
 綾小路で何かのイベントがある時は駆り出されるし、今年のスキー合宿も一緒に行ったので良太も親しくなった。
「ええ、紫紀さんから連絡があって、良太さんと工藤さんをニセコの山小屋に案内するようにって言われてて。あれ? 一人?」
 公一は良太のカートを持ってくれた。
 良太はリュックを背負いなおし、「工藤は名古屋だから、俺一人」と答える。
「何だ、そっか」
「悪いな、こっちの都合でこんなとこまで」
「いやいや、二、三日スキーしてきていいって言われてるし。紫紀さん気前いいから」
「そりゃよかった」
 最近、ロンドンに行ったことや年明けに予定されている初釜の準備のことなど、公一は面白おかしく良太に聞かせてくれるので、ニセコまでの道のりも楽しく過ごした。
 ちなみに初釜には工藤も良太ももちろん招待を受けている。
 


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