好きだから49

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 朝がた鈴木さんが生けたバラが甘い香りをオフィスに漂わせていた。
 北風が強く重い曇り空が関東一帯を覆っていたが、花の淡いピンク色が少しばかり気分を和ませてくれるようだ。
 十時少し前に良太がオフィスに降りていくと、鈴木さんに次いで既に沢村が来ていた。
 昨日小田から沢村に電話があり、十時半にここで会うことになっていた。
 小田には既に藤堂からの情報も伝えてあったが、良太もいつになく沢村から緊張が伝わってきて、おはようと声をかけただけで自分のデスクで仕事を始めた。
 今日は良太や鈴木さん以外は誰もオフィスに寄る予定はない。
 沢村も何となく内容は推し測れるものではあったが、実際小田を前にすると多少の緊張はあった。
「お電話でも少しお話しましたが、現在、沢村さんの代理人としてだけではなく、青山プロダクションの代理人としても、沢村宗太郎氏に対する訴訟も辞さない方向で準備を進めています」
 一呼吸おいて、小田は続けて、例の芸能誌にわざわざ青山プロダクションのでっち上げだというでっち上げの記事を掲載させたことも含めて、沢村宗太郎が顧問弁護士の真岡を通じて興信所の大坪に沢村だけでなくアスカのことまで探らせ、その際に二人の部屋に忍び込み、盗撮させたことなどで、沢村宗太郎に対して名誉棄損での訴訟を起こすだけでなく、大坪は住居不法侵入罪、真岡やひいては沢村宗太郎自身もその教唆で立件されることもありうる、等を説明し、さらに真岡から工藤宛に直接かかってきた電話の件も話した。
「沢村宗太郎氏や真岡弁護士は、あなたに対して認識の齟齬が生じているようですね」
「あんのクソオヤジ! それに真岡ってヤロウ、昔からいけ好かないやつだったんだ! 寝言言いやがって、告訴するのはこっちだ!」
 沢村は憤りを抑えられず呻いた。
「ひとつ、申し上げなければならないことがあります。これは沢村さん、あなたの不利益にも成り得ることなので、我々はあなたのお考えに従いますが」
 小田は声を落とした。
 オフィス内はしんと静まり返り、キーボードの音だけが響く。
「今回、ちょっと藪をつついてしまったようです」
「というと?」
 もったいぶったというより、しばし躊躇したようだが、小田は持っていたタブレットを沢村に向けた。
 画面にはいくつかの画像が並んでいて、小田はその一つを拡大した。
「これは……」
 そこにはどこぞの高級料亭らしき廊下を男が三人ほど歩いているようすが写っていた。
「別件もあって、この料亭にうちの息のかかった調査員がもう何か月も前から潜り込んでいましてね、たまたまこういう画像が紛れ込んでいたんです」
「三輪田議員と宗一郎…」
 さらに別の画像は沢村の兄宗一郎が持っていた紙袋を衆議院議員三輪田の秘書らしき男の手にこっそり渡しているとみられる図だ。
「ターゲットは三輪田議員や朝日産業ではありませんでしたし、この画像だけでははっきりどうということも言えず証拠能力もありませんが、もし人目に触れたら、いろんな憶測をかきたてられるものですからね」
「立派に贈収賄でしょう。おそらくクソオヤジの頃からじゃないんですか」
「まあ、素行を改めなければいずれ、そちらにも検察の手が入ることもあることをお知らせした方がいいかと思いますが」
 小田はそれらの画像が入っているのであろうUSBを沢村に差し出した。

 


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