好きだから92

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    ACT 14
 
   
 昼過ぎには雨が上がったものの、ビル風がきつく、佐々木は寒さには勝てずにチェスターコートにマフラーをぐるぐる巻き、温かいブーツを履いてオフィスを出た。
「今日もプラグイン? 佐々木ちゃん、昨夜遅かったんでしょ、何か顔色悪いよ」
「まあ、今日で何とか目途がつくはずやから。いい加減昨夜は帰って即寝たし」
「車で送ろうか?」
「平気。歩いた方が頭も冴えるよって」
 そんな佐々木を直子は心配顔で見送った。
 昨日はプラグインの藤堂と共にクライアントである東洋不動産に赴き、昨夜遅くまでプラグインで最後の調整に入っていたが、夜中二時を過ぎたところで藤堂が翌日に持ち越しを決めた。
 十一月に佐々木は藤堂に同行してニューヨークに出向き、在住の大物ミュージシャン、常盤繁友をイメージキャラクターにした撮影が行われた。
 年明けの放映になるCMだが、東洋不動産の広報から細かい指示が入り、かなりギリギリになったものの、浩輔も佐々木を手伝ってくれているし、何とか今日中に調整が終わる予定だった。
「佐々木さん、元からプラグインのメンツだったかのようだよね」
 難しい顔でモニターを睨んでいると、藤堂が時々入れる茶々で息をつくことを思い出す。
「でも、佐々木さん、顔色よくないし、大丈夫ですか? 去年も今頃、風邪ひいたでしょう」
 隣に座る浩輔が佐々木の顔を覗き込む。
「今のとこは平気や。大和屋のイベントCMが残っとるし、まだ寝込むわけにはいかへんな」
「よし、キリのいいところで、お昼にしよう。今日は寒いし、もうすぐ松花堂弁当が届くからね」
 二人のようすを見ながら藤堂は立ち上がり、キッチンに向かった。
 今日は河崎、三浦組も朝からオフィスにいて、何やら二人でああでもないこうでもないとやっている。
 師走のプラグインは昨年と比べて忙しさも倍増していた。
「お昼の用意ができたよ」
 届いた松花堂弁当を大テーブルに並べ、お茶をそれぞれの席に置いて、藤堂が呼んだ。
「うまそうや」
 佐々木は弁当の蓋を取った。
 朝はパンをかじりかけたがあまり食欲がなく、ビタミンゼリーを飲んだだけで出てきたので、さすがに少し腹が減った気がした。
「わ、きれいですね」
 浩輔がいそいそと箸を取った。
「とにかくやつらの表情が軽い。何とかしろ」
「しかしですね……」
 食べながら仕事の話の続きになっている河崎と三浦に、「そこ! 食事中は仕事の話抜き」と指導を入れる。
「仕事の話でなけりゃ、何を話す?」
 河崎がうるさそうに藤堂に文句をつける。
「高尚な趣味の話に決まってる。あ、悪い、お前にはそんなものなかったか」
「ほう? 高尚な趣味ってのはやたらものを配りまくるサンタもどきのことか?」
「ゴッホもモーツァルトも千利休もわかんないやつにはサンタの偉大さもわからないんだよな~」
「仕事をしなけりゃメシも食えないんだ。ホームレスであれモーツァルトなんか聞くより、地道に缶拾いしてなきゃ明日は野垂れ死にだ」
「ホームレスであろうが、モーツァルトも聞けばデカルトも読む。メシが食えなくてもモーツァルトが聞ければよしってのも美学だ」
 呆れて二人を見やった浩輔は隣の佐々木に、「この二人、段々話が低次元になっていくんです」と耳打ちした。

 


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