好きだから93

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「ショートケーキのイチゴをお前に取って食われて泣いていた和也にそのごりっぱな美学とやらを聞かせたいもんだ」
「あれは俺のモンスターカードと和也のイチゴをトレードしただけで、勝手に和也が泣いたんだ。大体、年長さんの康太郎クンらのグループをタコ殴りにして、お菓子をせしめてたのは、どこのどいつだ?」
「最初に守や栄太から腕ずくで取り上げたのは康太郎らだ。弱肉強食ってのを叩きこむのに最適なのが幼稚園なんだ」
 既に会話から離れた三浦は、いつものことと気にする様子もなく食べるのに専念している。
 手の付けられない会話が展開されているオフィス内に電話が鳴り響いた。
「プラグインでございます」
 即立ち上がって電話を取った浩輔が振り返った。
「藤堂さん、芝アートプランニングさんからです」
 藤堂が電話に出ると、次元が底辺まで落ち込んだ会話が途絶え、オフィスに平穏な空気が蘇えった。
 みんなが食べ終わり、お茶を入れ直した藤堂がみんなの茶碗にお茶を注ぐと、河崎と三浦はまたそそくさと打ち合わせに戻った。
 藤堂は椅子に腰を下ろして、熱いお茶を一口すすると徐に佐々木に言った。
「佐々木さん、誰か、それなりの腕のカメラマン、知りませんか?」
「カメラマン、ですか?」
「そう、人物とか、それなりに撮れるような」
「うーん、知り合いなら何人かいますけど」
「その前に、ピアニストの広告プロジェクト、やりませんか?」
 すると、浩輔が二人の会話に割って入った。
「え、佐々木さん、これ以上仕事増やしたら、それこそ寝込んじゃいますよ。今だって、三つ以上抱えてて、ほんとは二つでもかなり佐々木さんにはしんどいんですから」
「わかってるよ、有能なマネージャーくん。今すぐ始動って仕事じゃなくて、年明けゆっくりってやつだから」
 藤堂はニコッと笑う。
「年明けだと、八木沼選手の仕事と青山プロ関連の仕事が入ってますよね。佐々木さん大丈夫ですか?」
 まさしくマネージャーの顔で、浩輔は佐々木に尋ねた。
 オフィスササキの直子とはしょっちゅう電話でやり取りしているので、佐々木のスケジュールもきっちり頭に入っている。
「せやなあ、内容や納期にもよるけど」
「だったら大丈夫。ピアニストの公演プロモーションで、四月くらいまでにというやつだし。実は最初うちに依頼された時、それこそてんてこ舞いで一度断ったんだけど、芝の社長、代理店と喧嘩しちゃったらしくて、またうちに泣きついてきましてね」
「はあ」
「カメラマンもポスターとかうまく撮ってくれたら、若手でも新参者でもいいんですが。今知り合いみんな忙しくて」
 佐々木はそれを聞いて、ふと例の佐々木の写真パネルを持ち込んだカメラマンのことを思い出した。
「一人、若手を知ってますが、聞いてみます?」
「そりゃぜひに」
「名刺、オフィスやから、ちょっと待ってください」
 佐々木は直子を呼び出して、カメラマン幸田信二の連絡先を聞いた。
「藤堂さんから連絡してみてください。俺から聞いた言うてもらえば」
 藤堂が幸田に連絡を取っているうちに、浩輔は直子からラインを受け取っていた。

 


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