「うわ、すご! 佐々木さん!」
「え?」
いきなり叫んだ浩輔を佐々木は振り返った。
「カッコいいっつうか、すんごいいい写真じゃないですか、これ」
携帯の画面をぐっと差し出された佐々木は、これ、を見て眉を顰めた。
「直ちゃん…………」
どうやら直子が、幸田の連絡先だけでなく、例のパネルを撮って浩輔に送ってきたらしい。
「何がすごいって? OKもらいましたよ、佐々木さん、えらく喜んでましたよ彼」
電話を終えた藤堂が振り返った。
「これ、すごくないですか?」
浩輔が早速携帯を藤堂に見せに行った。
「おー、これは! 佐々木さん、これ、オフィスに飾ってるんですか? ぜひ拝見したい」
「まさか、奥にしまってありますよ。そのカメラマンに勝手に撮られたやつで」
「何ともったいない! まあ、被写体もいいけどね~、なかなかいい腕してるんじゃないですか? 明日にでも挨拶に来るって言ってましたよ、幸田くん」
まあ、確かに腕はなかなかかもしれないと、佐々木も思ったのだ、被写体が自分じゃなければ。
「しかし、今度は八木沼選手ですか? 沢村選手つながりで? あのCMも非常にカッコいいし、かなりの評判ですからね、業界でもまた佐々木さんの名前が上がりましたよね」
「……いえ、八木沼選手は例の水波の撮り直しCMの朱雀酒造関連ですよ」
「ああ、ひょっとして、電映社の今西さん? あの人、結構強引、剛腕で有名だから。うちの河崎の右に並ぶくらい、できないことはNOをきっちり言った方がいいですよ」
「はあ、かなり、強引に押しきられてしもて」
色々なちょっとしたことが、佐々木の心を揺さぶる。
沢村という名前はどこからか飛び出してくる。
そのたびごとに胸に打たれた杭がキリリとさらに奥へ深く打ち込まれるような気がする。
でもそのうち時間が経てば………。
その時、壁に設置された大画面にオーケストラが写し出され、青いドレスをまとった女性がピアノの前に座ると、やがて演奏が始まった。
「ショパンのピアノ協奏曲ですね」
佐々木は笑顔のピアニストを見つめた。
あどけなさが残る表情は柔らかく、美しかった。
力強い導入で、ピアニストの指が音を奏でる。
「内村史穂。彼女、こう見えても三十代なんですよ。少女っていってもいい感じでしょ?」
藤堂が言った。
「芝アートさんが最初にきて置いてったデータ。細くてきゃしゃなのにダイナミックな演奏するんです。チャイコフスキー国際コンクールで優勝経験もあるんですが、家庭が複雑らしくて、あまり日本に来ないけど、ウイーンフィルと共演で久々日本で演奏することになって来月中旬以降に一度来日するみたいなんだ」
「何かほんとは藤堂さん、初めからやりたかったんじゃないですか?」
嬉々として説明する藤堂に、浩輔が口を挟む。
「鋭いね、浩輔ちゃん。実はウイーンで一度彼女の演奏を聞いたことがあって、以来ファンなんだ。ただね、今回なんてったって仕事が詰まってたからね~、なくなく断ったんだが」
「ええ感じですね~、音、透明感あるのにダイナミックで」
音楽でも美術でも心惹かれるものはすんなり入ってくる。
「でしょう? さすが佐々木さん」
佐々木の感想に藤堂が勢いづく。
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