「本人にもあったことがあるんだが、普段はこうふわっと妖精っぽいっていうか、あ、そうそう、森野友香さん、彼女に何か雰囲気が似てるんですよ」
佐々木は笑った。
実は映像を見てそんな風にも思ったからだ。
佐々木はネットで見た友香の絵を思い出して、自分と別れてようやくあんなはじけるような笑顔を取り戻したのだと少し切ない気もしたが、それでよかったのだと今は思えるのだ。
沢村かて、そのうち俺とのことなんか忘れて活躍するに決まっとる。
MLBにかて行くんやろうし。
「佐々木さん、……佐々木さん」
藤堂が目の前に立っていた。
「お疲れのようだから、しばらく音楽でも聴いててください。俺、ちょっと出かけてきます。河崎らも出かけましたし、ごゆっくり」
どうやらぼんやりしていたらしいと、佐々木は気が付いた。
「かなり、お疲れですね、やっぱ。どうぞ、俺のことは気にしないで休んでて」
そう言って浩輔も自分のデスクに戻っていく。
確かに、疲労困憊の時にシャカリキになってやっても、うまくいかないことが多い。
少しだけ、と思って画面に視線を戻すと、ピアノの音が心の中にまで流れ込んできた。
家にたどり着くと九時を回っていた。
今日もオフィスには戻れず、直子にオフィスを閉めて帰るように伝えてプラグインを出た佐々木は、ふと春日の顔を見たくなって、この時間ならまだいるだろう古巣へと足が向きかけたが、結局思いとどまり、コンビニで翌朝用のパンなどを買って家路についた。
今年は十二月に入っても、佐々木がいっぱいいっぱいの状況だとわかっているからか、助け舟の声もかからなかったから一か月以上会っていないが、春日に会うのは会って慰められたいだけの甘えだとわかっていた。
いい年をして誰かに寄りかかりたいとか、言ってる場合じゃないだろう。
リビングのソファに腰を下ろすと、ふうっと大きく息をつく。
思った以上に疲れが溜まっているようだ。
さっきもピアノの音が心地よかったからか、電話の音に目が覚めると、知らないうちに一時間以上眠ってしまったらしい。
コートをかけてくれたのは浩輔だろう、藤堂もまだ帰ってこなかったし、浩輔一人だったからよかったようなものの、人のオフィスでぬくぬくと居眠りとか、我ながら呆れる話だ。
とにかく東洋不動産は何かしらの修正が入ったとしても、ほぼ終わったも同然だ。
次は大和屋だ。
今年の初めに放映されたCMにも起用された青山プロダクション所属俳優小笠原裕二や南澤奈々の撮影はとっくに済んでいるのだが、全体的な流れの制作はこれから佐々木自身が行い、仕上げは制作会社に出向いてスタッフと共に細部を仕上げていく最終段階に入る。
浩輔も佐々木について頑張っているが、まだ完全に浩輔に任せるところまではいっていない。
まだまだ寝込むとかしてられへんからな。
パンと一緒に栄養ドリンクにゼリーを仕入れてきた。
今日はまあ眠れるやろし、何とかそれでしのがないと。
座ってしまうと動くのもおっくうで、ふっと目を閉じたところへ、携帯が鳴った。
けだるい動作でポケットから携帯を取り出すと、稔の名前が出ている。
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