「工藤さん、広瀬さん、またいつでもお越しををお待ちいたしております。今日、雪がひどいですから、足元お気をつけて」
田丸は終始ニコニコと二人を送り出した。
「田丸さんて優しそうな人ですよね、ニコニコしてて」
「あいつは元俳優やってたんだが、弱肉強食の世界が性に合わず、料理屋に就職し直して一から修行したらしい」
「そうなんですか」
そういや、この間行ったカミーユも、オーナー、元テレビマンだったよな。
やっぱ、業界で生き残るっていうのは、至難の業ってことかな。
いや、彼らは見切りをつけたってことなんだろうけど。
「優しそうな顔に騙されるなよ」
「え? 田丸さん、裏の顔が……」
「ばあか。あいつは業界を去ったが、傍から目線でものを言うから、中にどっぷりつかっている人間にはきつい場合もあるってことさ」
「なるほど」
視聴者目線でものを言ってくれる有難い存在ってわけか。
と、その時、工藤がうっかり滑りそうになって辛うじて体勢を立て直した。
「ったく、何なんだ、この雪は!」
いらいらと工藤は文句を垂れる。
「車、捕まえます」
良太はタクシーを探そうとしたが、文字通りちんたら走るタクシーにはどれも客が乗っている。
「ハイヤーとか……より、電車、しかないですよ、こんな日はやっぱ」
またさっきより雪が強くなって、しかし足元にぼたぼた落ちるのはベタ雪で、滑るわ、靴には水が入るわで、とてもたまったものではない。
そうこうしているうちに向かいを歩いていた女性が滑って転び、傍らの男性が助け起こそうとしてまた一緒に転んでいるのが目に入った。
もう服も靴もべちゃべちゃのドロドロになっているだろうことが予測されて、良太は悲劇的なのに笑いをこらえるのに苦労してしまう。
「こんな雪、例年にないですよね」
「わかった、行くぞ」
工藤が急に方向を変え、転ばないようにのっしのっしと歩いて行く、その後ろをついて行く良太も、うっかり転びそうになって雪の中に手をついた。
「ひええ、冷て………」
近くの地下鉄入り口から二人は階段を降りた。
「え、改札、こっち………」
と、てっきり電車に乗るものと思っていた良太は、慌てて工藤に追いついたが、工藤は大手町タワーへと入っていく。
「え、ちょ、工藤さん!」
まさか、と思いながらついて行くと、そこはホテルのフロントだった。
まさかまさかだぞ、ここ、五つ星で、超超高いんだぞ、何考えてるんだこのオッサンは!
ホテルマンに案内されて辿り着いた部屋は、眼前にいわゆる宝石箱をひっくり返したような東京の夜景を見下ろせるプレミアムスイートだ。
「ここ、いくらだと思ってるんだよ! 超超高いんだぞ!」
確か、京都でも似たようなことがあったような。
「靴がズクズクだ。店から一番近かったしな」
確かに他にも電車が止まっているからという理由で停まろうとしている数名がいたようだが、何人かは断られていたぞ。
イブじゃなくてもクリスマスなんだから予約なしで泊まるとか………。
良太が訝しんでいるうちに工藤は引き出しから浴衣を引っ張り出して着替えている。
「お前も着替えてスーツ、クリーニングに出せ」
やがて現れたホテルのスタッフに慌てて着替えた良太のものと一緒にスーツ一式と靴を預けると、工藤はワインとつまみをオーダーした。
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