「まあ、風呂にでも、入って来いよ」
確かに寒かったから良太にとっても風呂はありがたいのだが。
良太がバスルームに入ろうとした時、電話がなった。
工藤は英語で応対している。
怪訝な顔でチラリと工藤を見やったものの、夜景を見下ろせる場所に位置する豪勢な風呂はラグジュアリー以外の何物でもない。
和テイストが散りばめられた高級感溢れる部屋は、海外の客をもてなすにはもってこいだろう。
そういえばドラマで提携した海外ブランドの担当者や確か有名デザイナーなんかもこのホテルを使っていた記憶があった。
ひょっとして工藤、お得意様ってやつ?
あっと思い出したのが、イタリアのテレビ局のミラノ美人、ルクレツィアだ。
最初に会った時から、ただの仕事関係者ではないのは明白だったが、きっと彼女もこのホテルを使ったのではないか。
色々考えると際限がなくなりそうなので、良太は頭をフルフル振って考えるのをやめた。
良太が風呂から出て入れ違えに工藤が風呂へ向かうと、リビングのテーブルにはワインとつまみが数種類、イチゴやマンゴー、オレンジなどのフルーツの盛り合わせがセッティングしてあった。
「ちぇ、なんか………クリスマスだから、みたいな感じじゃん。イブじゃないけどさ」
ボソリ、と良太は口にする。
まさかね、あの工藤が。
しかし、東京でホワイトクリスマスとか、ほんと、疲れる。
転ばないように歩くのもどうしても力が入るし。
明日はいくら何でも止むよな?
携帯で天気予報を見ようとした良太だが、いつの間にか瞼が落ちてきた。
「おい、良太」
はっと顔を上げると工藤がのぞき込んでいた。
「寝るんならベッドに行け」
「え、ワイン、飲みます」
「フン、一応、勧められたから取ってみただけだ。無理に飲まなくてもいいぞ」
「だって、滅多に飲めなさそうなワインじゃないっすか」
いくらだか知らないが、高級ワインということくらいは良太にもわかる。
「支配人とは仕事の付き合いがあるから、勝手に高いやつを押し付けてくるんだ」
そう言いつつも工藤はクーラーから出したワインのコルクを抜いた。
「確かデザイナーのマルローとか、ここ使ってたよな」
ボソリと良太は呟いてみた。
「覚えていたのか?」
「思い出したんです。それに……」
「ガイジンは和テイストだと喜ぶからな」
続けてルクレツィアのことを言おうとした良太の言葉を遮るように言うと、工藤はグラスに注いだワインを飲んだ。
ちぇ、なんかごまかさなかったか? 今。
胡散臭げに工藤を見やり、良太はゴクゴクとワインを飲んだ。
それでも、「さあて寝るぞ」という工藤に腕を引かれてベッドに押し付けられると、期待と反発心がないまぜになって、「雪道歩いて足腰にきたんじゃないのかよ、年だし」などと良太の口から飛び出すのは憎まれ口だ。
「フン、最近ちょっとなまってきたし、運動しないとな」
良太の浴衣をはだけて工藤は笑みを浮かべた。
「浴衣ならガキでもちょっとは色気が出るのか」
バカヤロと言おうとした良太はそのまま唇を塞がれた。
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